綿菓子みたいな | ナノ

4-2

すぐに顔を上げた被呪者だが、あまりにも様子がおかしい。
先ほどまでの弱弱しい雰囲気はなく、ニンマリと邪悪な笑みを浮かべて恐ろしい程の殺気と呪力を感じる目の前の男。

『そろそろ次の獲物を探していたところだ。そっちの男は呪術師か』
「さっさとその体から出てきてくれないかな。正々堂々やりあおうよ」
『断る。祓いたいならこの男ごとやってしまえばいいだろう』

ヒヒヒッと呪霊らしくあくどく笑う奴に、五条が隠すことなく舌打ちする。
そこに雲雀が「ストップ、です」と五条の後ろから顔を出した。

「次の獲物ってもしかして私だったりします?」
『そうなるな。この男に助けを求められたせいで、可哀想な人間だ』
「じゃあその可哀想な人間の最後の雑談に付き合ってくださいませんか?もしかしたら心変わりしてもらえるかもしれませんし」
「ちょっと雲雀何言ってんの」
「五分だけ。ね?」
『・・・まぁ、いいだろう』

了承してもらえたことにニッコリ笑ってお礼を告げる雲雀に五条は頭を抱えた。

もしかして対話して成仏してもらおうとしてる?無理だよ?
話が通じる呪霊でよかったとか言ってるけど、会話できる奴ほど危ないんだよ。

とはいえこの呪霊を祓うにはどうせ男ごとになるため対話が終わってからでも変わらないか。と結論を下す五条。

雲雀は座布団に座りなおして今まで呪霊がどのような悪事をしてきたか聞いていた。
呪霊も下手に出てくる彼女に悪い気はしないようで、今までどのような手口で人を屠ってきたかを得意げに話している。

「──へぇ、お強いんですねぇ」
『人間に根を張れば呪術師も祓うのを躊躇するからな。隙ができやすい』
「あぁ、その隙にサクッとってことですか。呪霊ってただ飛び掛かってくるだけかと思っていましたけど、考えて行動するのもいるんですねぇ」
『フン、雑魚としか会ったことがないらしいな』

一級の呪霊がいるとは思えないほど普通に会話が成立している。
しかし五条は雲雀の言った言葉に引っ掛かりを覚えていた。

「("飛び掛かってくるだけ"って・・・やっぱり視えてるじゃん)」

被呪者と呪霊が入れ替わっても平然としてるし、これはもう確定だね。
この後きっちり話し合おう、と二人の会話を聞きながら予定を決めた。
そうこうしていたところで雲雀が時計に目を向けて「あら」と声を零す。

「──もうそろそろ五分ですか。時間が過ぎるのは早いですね」
『そうか。なかなか話が分かる小娘だった』
「気に入ってくださいました?犠牲者回避できます?」
『いや、生かしておく必要性を感じない』
「そうですか。残念です」

会話が終わると同時にぞわりと呪霊の呪力が揺らめいて、次の瞬間には五条の蹴りが呪霊に飛んでいた。
ガードした呪霊がその衝撃で勢いよく数メートル程ずり下がる。

「わっ、わっ・・・!五条さん!ここでドンパチしないで!畳が死にます!」
「気にするとこソコ!?とにかく雲雀は動かないで。コイツ始末してくるから」
「駄目ですよあの人が助けを求めたのは私です」
「あれは君には重荷だよ。危険性が分かってない時点で力不足だ」

一級呪霊がどんなものか分かっていたらあんな呑気に雑談なんて出来るわけがない。

五条の言葉に雲雀は困ったように眉を下げて息を吐いた。
少し考えるように被呪者に憑いている呪霊に目を移したかと思えばそちらに近づいていく。

数歩歩いたところで五条が雲雀の腕を取って制止した。

「だーかーらー!お前ね、」
「大丈夫ですって。ちゃんと考えて動いて──」

二人して呪霊の方に目を向けた時には、奴はもう目の前にいた。
雲雀に向かって拳を振り下ろすのを五条が阻止しようと掴んでいた彼女の腕を引く──が、あろうことか雲雀は踏ん張って、自由な方の腕を呪霊に向けて伸ばした。

相手が話に乗ってくれて被呪者と呪霊を切り離すための"境界"を引くことができたから、あとは引っぺがすだけ。

五条が腕を引いたおかげで体がずれて呪霊の腕を回避して、雲雀は男の胸倉を掴んで引き抜く動作をする。
ずるりと、被呪者から呪霊が引きずり出された。

「──は?」

五条の間抜けな声が祓殿に溶けて消えた。
雲雀が続けて掴んでいた手に呪力を込めるも、何かを察した呪霊が彼女の体を吹っ飛ばして距離を取る。
想定外のことに五条の腕を掴む力が緩んでいたため祓殿の隅まで転がった雲雀は、「いたた・・・祓い損ねましたか」とぶったところを摩りながら体を起こした。

「はあぁぁ!?どうなってんの?どうやったの?」
「ふふん、驚きました?私こういうことができるんですよ。」

素直に驚く五条にドヤ顔を決める雲雀は、もう一仕事だと呪霊に目を向けた。
ドロドロとしたゾンビのような風貌の呪霊だった。
かろうじて形を成している顔がニタリと醜く笑みを作る。

『ううん、油断した。油断した。仕方ないから新しい寄生先にして使い倒してやろう』
「無理ですよ。ここは私の領域ですから。勝ち目ないです」


パンッ、と雲雀が両の手を合わせた瞬間。

呪霊の体がサラサラと砂のように崩れていく。

驚き慄く呪霊が喚くが、間もなく一片も残らず消えてなくなった。


静かになった祓殿には雲雀と五条、そして気を失った被呪者だけが残っていた。
一瞬呆けていた五条が雲雀にニッコリと笑みを向ける。

「・・・雲雀」
「はいー」
「説明」
「その前にそちらの男の人を介抱しましょう。・・・五条さん、よろしくお願いしますね」

ニッコリと笑い返す雲雀に五条の顔が引きつる。

だってここじゃ寝かせておくくらいしかできないですもん。あんなに強い呪霊に憑かれていたのだから特殊な処置が必要ですよね。それに人殺しもしているので精神的社会的にもケアが必要です。

「一個人の私よりも五条さんに頼ったほうが適切な処置を受けられるでしょう?」
「・・・あーもう!分かった預かるよ!すぐ戻ってくるからここで待ってて」
「ごめんなさい。私この後実家に戻る予定があるのでまた今度で。あ、あの呪霊はちゃんと祓えているのでご安心くださいね」

時間を見ればすでに終業時間。
つまり五条は後始末を押し付けられた上によく分からない現象の説明すら聞けないわけだ。
任務は被呪者保護で達成できたもののどう報告しろと。
彼女の自由奔放さに頭を抱えたくなった五条だった。



※※補足※※

─雲雀─
強い呪霊だったけど場所が自分の領域である神社で助かった。ちなみに彼女の言う"領域"は一般の辞書に載っている「ある力・作用・規定などが及ぶ範囲」という意。今日はお母さんの誕生日だからこの後すぐ上がって実家に空間移動するよ!

─五条さん─
初めて祓うところを見たけどいろいろと謎が増えた。というか領域展開(なのか?)に関してはホント意味わかんない。実家に帰るという彼女に途中まで同行して話を聞こうと被呪者を家入硝子に押し付けて数十秒で戻ってきたのに、境内のどこを探しても彼女を見つけることができなかった。


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