綿菓子みたいな | ナノ

3

二人が出会った日から数週間後。

雲雀は巫女業で県外の曰く付きの廃屋へ出張お祓いに来ていた。
お祓いと言っても儀式に関しては宮司に付き添って要所要所でお手伝いをするだけだ。

本来は巫女の付き添いはいらないのだが、八雲家の力が本物だと知っている古くから縁のある神社のため、むしろこういった案件こそ同席必須なのである。

今日は取り壊そうとする度に事故が起きる廃屋のお祓いだった。死者も出ているらしい。
行ってみればワチャッとした呪霊達と強そうなのが二体。
といってもお祓いの過程で襲ってきた奴らを片っ端から消していけば、終わる頃には綺麗さっぱりただの廃屋になっていた。

──────────

無事お祓いを済ませて事務的なことも終わった後、現地で解散させてもらった雲雀は電車に乗って少し離れた街に来ていた。
目当てはケーキが美味しいと評判のカフェだ。
美味しかったら五条に写真付きで自慢してみようと思っていたりする。

ブラブラ歩いて土産物店を覗いたり街並みを楽しんだりしながらチェックしていたお店を目指す。
化粧品を見ていると思ったより時間が経っていることに気付いて少し急いで店を出れば、すぐそこについこの間知り合った顔を見つけて足を止めた。
同時に向こうも雲雀に気付いて一瞬驚いた表情を浮かべた後、笑顔を浮かべて手を上げる。

「久しぶりー。こんなところで会うなんて五条さんビックリ」
「お久しぶりです。私も驚きましたよ。こっちのほうに住んでるんですか?」
「いんや、仕事だよ。雲雀は?」
「私も仕事です。もう終わってこの辺ブラブラしてて・・・今からケーキが美味しいカフェに行くところです」

"ケーキが美味しいカフェ"と聞いて嬉しそうな声を上げた五条が、自分も一緒に行くと申し出たため二人でその洋菓子店のことについて話しながら歩いた。

スマホのナビで辿り着いた店に入って席に着き、メニューを捲っていく。
二人とも頼むものを決めてオーダーを通したところで、五条がテーブルに肘をついて興味深そうに雲雀に目をやった。

「で?仕事で来たって言ってたけど今度こそ巫女さんやってたの?」
「そうですよ。ちゃーんと巫女装束着て宮司さんの方のお手伝いをしてました」
「へぇ。というか県外まで出てくることあるんだねぇ。こっちにはこっちの神社があるじゃん」
「うちの神社厄払いに定評があるんですよー。なので曰く付きの建物とかあるとそのお祓いに呼ばれるんです。私も毎回ついて行ってますけど、ちゃんと祓えてるみたいで厄介事とかが解消してますよ」
「でしょうねーーー」

そりゃ君さえいれば雑魚なんてお祓い関係なしに綺麗に一掃されるよね。なんて呆れ半分で返事を返す五条。
しかし"曰く付きの建物"というところが引っかかって「あれ?」と首を傾げた。

「建物のお祓い?人じゃなくて?」
「えぇ、県外は基本的に土地とか建物です」

人も時々ありますけど、うちに頼むくらいヤバい状態だと大抵お祓いを予約した日までにポックリなんで。と雲雀は心の中でそっと呟く。

五条は彼女の答えを聞いて「そう」と何やら考えているような返事を返した。
少し意味あり気な会話の空白ができた気がして、今度は雲雀が口を開く。

「そういえば五条さんて何のお仕事されてるんですか?」
「ん?呪術師だよ。あと呪術の学校の先生」
「えっ・・・えっ、」

呪術師?というか先生?この一見ちゃらんぽらんな性格の人が?えっ???

色々な感想が入り混じって、目を丸くして五条を凝視する雲雀。
一方の彼はその様子を見てケラケラ笑っていた。

「雲雀、すっごい失礼なこと考えてるでしょ」
「いやいやそんな・・・。・・・学級大丈夫です?破綻してたりとか・・・」
「アハハッ!ストレートに超失礼!大丈夫だよ皆いい子だから。というか呪術師じゃなくて教師であることに突っ込むんだ」

いくら巫女をやっているからって普通呪術師なんて信じられるものじゃないだろ。
"呪術"というワードを自然と受け入れているあたり、やっぱり呪霊も自分が使っている術も分かっているんじゃないの。

五条が笑いながらも冷静にそう考えていたところで、それぞれが頼んでいたケーキとドリンクが運ばれてきた。
雲雀は指摘されたことに少し気まずそうな様子を見せながら、紅茶を飲んでチーズケーキにフォークを入れる。

「・・・。呪術師の仕事って・・・」
「呪霊を祓うのが主な仕事だよ」
「ガチのプロじゃないですか・・・視えるだけの人じゃなかった。話聞くとかそんな必要なかった・・・。はずかしい。
 ただの巫女ですみません。お祓いしてるとか言ってごめんなさい」
「そんなこと気にしなくていいってー」

君だってバッサバッサ祓える術纏ってるじゃん。ホントそれで視えてないって無理だって。
そう言いたいけど言えない。本当に視えていない可能性も零ではないから。

「それで、そのガチなプロの五条さんは今日は呪術師の仕事でここに来たんですか?」
「まぁ・・・そうだね。でもちょっとイレギュラーが起きて予定が崩れちゃった」
「それはそれは・・・お疲れ様です」

五条のいう"イレギュラー"というのは、祓う予定だった呪霊がいなかったというものだ。(ちなみに今回のはいくつか抱えている任務のうちの一つである)
ここから北の方向にある、廃屋となった大きなお屋敷。
二級と準二級の呪霊がいるという情報だったのにもぬけの殻だった。

「雲雀は?危ないことなかった?」
「大丈夫ですよ。ここから電車で北上していった場所なんですけど、普通の廃屋でした。大きい館だったので時間はかかりましたけどいつも通り終わりましたよ」
「・・・は?」

五条のドスの効いた"は?"に雲雀が肩を震わせた。
えっ、なに?私何か言った??と目を白黒させて彼を見る。

「この街から北に行った廃れた大きい屋敷?」
「は、はい。取り壊そうとする度に事故が起きて死者も出てるってところで・・・」
「・・・・・・マジ?」
「マジですけど・・・どうしたんです?あ、もしかして五条さん、その廃屋知っていました?」
「うんまぁ・・・」

知ってるも何もその廃屋が今回の任務先の一つだったんだけど。
じゃあ呪霊がいなかったのってお前のせい?
もしかして"例の術師"ってお前?

じーっと雲雀を凝視する五条。彼女は居心地悪そうに視線を彷徨わせた。
小さく声を掛けるも五条は考えこんだ様子で返事がないため、仕方なしにケーキを食べ進める。

「(可能性は高いよね。この術だし他の呪術師が見つけられなかったのも分かる)」

仮に彼女が"例の術師"だったとするならば──そうでなくても涼しい顔で2級を祓う実力があるならば、事情を話して適切な身の割り振りをしてもらう必要がある。
となるとやはり雲雀が呪霊を視えるかどうかが重要だ。

もう少し交流を続けて・・・視えると分かったならすぐにでも呪術界のことを話すし、視えてないならまずそこをどうにかする。

「──うん、それでいこう!」
「えっ、どれですかこの数秒で何が決定したんですか」
「ううん。こっちの話だから気にしないで」
「いやガッツリこっち見て考え事してたじゃないですか嫌な予感しかしない!」
「あ、雲雀のチーズケーキ一口ちょうだい」
「会話のキャッチボールしましょうよ。私もモンブラン一口貰います」

お互いが遠慮なく相手の皿のケーキを抉る。
一口、と言いながらゴッソリ山盛り取った相手に、二人の間に数秒の沈黙が下りた。

「・・・雲雀って意外と遠慮ないよね」
「五条さんごときに取り繕う必要ないなと気付いてしまいまして」
「ごときってひどーい!僕これでも最強なんだよ?」
「モンブランうまぁ」
「会話のキャッチボールしよ!チーズケーキも美味しいね!」

二人の仲がとても良くなった、そんな一日。



※※補足※※

─主人公─
五条さん性格悪いけど良い人っぽい?呪術師って言ってたし、もっと仲良くなれたら私も視えるし祓えるよって打ち明けよう。でも危険な事と厄介事はノーサンキューで。

─五条さん─
前回交換したIDで時々まだお互い少し他人行儀にスイーツの情報交換をしていた。今回で仲良くなれたけど急に扱い雑じゃない?でも楽しい。今度いつ会えるかな。"例の術師"である可能性が高いので観察対象に追加。お前ゼッタイ視えてるだろ。


prev / next

[ back ]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -