8-1 「北海道?それはまた随分遠い所に行くんですね」 雲雀は仕事終わり、急に現れた五条に連れられて定食屋に夕食に来ていた。 とんかつ定食をサクサク食べ進めながら「明後日から北海道なんだ」なんて言う五条に目を丸くして食べる手を止める。 「今の時期は雪が積もってるから動きづらいんだよね・・・寒いし。あと移動に時間がかかるから面倒。・・・そういえば雲雀の実家も向こうだったっけ」 「そうですよ。この時期は集落に出入りできないです」 「山奥だから雪凄いんだろうね・・・雪かき大変そう」 「術式で雪と寒さはだいぶ和らいでるので過ごしやすいですよ」 「境界操術マジチート」 そんなことにも使えるんだ。とケラケラ笑う五条。 一通り近況や世間話をしながらそろそろ食べ終わろうかとなった頃、雲雀は「そういえば」と五条の出張の話を聞いた時から考えていたことを切り出した。 「北海道に出張するお話、私帰省する予定あるので一緒に行きます?もともと次の次のお休みの予定だったので親の予定も聞かないとですけど」 「えっいいの?もしかしてスキマで行ける?」 「もちろんです。と言っても私が行ったことがある空港とか駅しか行けないですけど・・・」 申し訳なさ気に言う雲雀だが五条は面倒な移動がなくなることに純粋に喜んでいた。 すぐに雲雀が母親に確認したところOKを貰ったため、話し合いをしてお互いの予定のすり合わせに入る。 雲雀は一泊。五条は任務二件を日帰りで、だそう。 考えた結果、行きは一緒に行って帰りはどこかで落ち合って五条を東京に帰すということになった。 そしてせっかく北海道まで行くのだから五条の任務が終わったら街中をブラブラしよう、と。 これに関して二人の心の内はというと。 「(雲雀とデートだ!さっさと任務終わらせて時間つくろう)」 「(友達と旅行なんて久しぶりだ!美味しいお店探さなきゃ!)」 「(あ、雲雀のこの反応ダメだ。普通に友達と観光とか思ってそう。全然意識してない)」 といった感じで齟齬が生じていたのだが、訂正されることはなかった。 話が着いたところで丁度食べ終わって荷物を持って席を立った。 この後会計へ行くのだが、ここで勃発するのが支払い合戦だ。 二人で食べに行くと五条は毎度当たり前のように全額支払おうとし、雲雀は当然友人に奢ってもらうわけにはいかないため自分の分は自分で支払おうとする。 今回は席を立った五条の足元に雲雀がスキマを開いて嵌めて、その隙に伝票を持って財布を取り出しながらレジへ早歩き。 レジに着くと同時にクレジットカードと伝票をトレーに乗せながら「お願いします」と言ったところで決着がついた。 初めのころはレジ前で「僕が払うよ」「いえ自分の分は自分で」というよく見る男女の小競り合いだったが、近頃はお互い周りにバレないように術を使って相手を妨害してその隙に支払いをするという勝負のようになっていた。 「払うって言ってるのに。少しは僕の顔を立ててよね」 「そんなこと言って、少しどころか全部払おうとするじゃないですか」 とまぁ、雲雀が払った時はこんなやり取りがされるのであった。 ────────── 出張&帰省当日。 部屋で待っていた雲雀は約束の時間より少し遅れて鳴ったチャイムに早足で玄関に向かった。 「五条さん、おはようございます」 「おはよー。今日はよろしくね」 「任せてください!さっそく行きましょうか」 玄関にまとめておいた荷物を持った雲雀が靴を履きながら言う。 頷いた五条を確認してスキマを開いた。 誰かに見られないうちにと二人でくぐって、一歩で北海道に到着。 この後は雲雀は実家に帰り五条は任務だ。 そして五条の任務が終わったら雲雀に連絡を入れて、またこの駅で待ち合わせ。 二人揃ったら北海道の観光の定番、小樽でブラブラして夕食をとる予定である。 雲雀は任務に出向く五条を「いってらっしゃい」と手を振って見送った。 その後実家に戻って過ごしていた雲雀は昼食を終えた後、五条と出かける用意をしていた。 服はゆるニットと膝下のスカートにタイツ。防寒を取るかオシャレを取るかさんざん悩んで、結局オシャレを優先した。 コートを着てしまうから夕食の時しか見せ場がないのだけれど。 髪を結い上げてイヤリングをつけて。 メイクはお出かけ用に少し華やかに。目元にラメを乗せてリップは明るい色を引く。 鏡でやりすぎていないか確認して、仕上がりに満足して一つ頷いた。 「あら?雲雀ったら今日は随分華やかねぇ」 機嫌よさげにメイク道具を片付ける雲雀を見て、母親が楽しそうにふんわり声を掛ける。 「私綺麗?」なんて冗談めかした雲雀の問いに母親はクスクス笑ってべっこう飴を渡した。 「とても可愛いわぁ。貴方がこんなにオシャレしてるの初めて見た」 「そう?確かにちょっといつもより派手かも」 「・・・あらあらぁ」 確か五条さんという男性と小樽へ行くのだったかしら。と娘の予定を思い浮かべて、無自覚に着飾っている様子の雲雀に頬を緩ませた。 それからおよそ二時間後。 「あと30分くらいで待ち合わせ場所に着くよ」との趣旨の連絡を受けた雲雀はソワソワしながら時間が過ぎるのを待って、最後の確認をして玄関に向かう。 「頑張ってね」なんて楽しそうに送り出す母親に首を傾げつつ、「うん、いってきます」とスキマを開いて出かけて行った。 [ back ] |