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7

応接室では四つのカップが紅茶の良い香りをたてていた。
それを入れてきたクイーンがツバキの隣に座れば机を挟んで向こう側に座るエルヴィンは話をする体勢に入る。その隣のリヴァイは足を組んでソファーに背を預けていた。
先に口を開いたのはツバキだ。

「さてさて、貴方達が何度かここを訪れたのは知っているがまだその目的を聞いていなかったね。ここ最近はまともなルートで稼いでいるし、まさか昔の犯罪をしょっぴくために時間を割いてきたわけではないだろう?」
「もちろんだ。我々の目的は勧誘──地下街の一角を牛耳る実力を持つ“キング”を調査兵団に招き入れたくてここに来た」

強い意志を宿したエルヴィンの視線がツバキを捉える。
想像通りの回答だとツバキは息を吐いて首を振った。確かに地上には出たいが今はまだその時ではないしこういう形で出るのは理想とは違う。
それを伝えれば彼もまた予想していたようで「そうか」と一つ頷いた。

「しかし地下を出るチャンスなどほとんどないだろう。出たいと思っても出られないのが現状で、運よく出られたとしてもまともに生きられず再びここに戻る者も多いと聞く。我々と来るなら合法的に地上に上がれてこの先の生活も保障するのだが」
「調査兵団は生存率が低すぎる。周りからの風当たりも強いし危険に見合った待遇がされていないでしょう。そんな所に“キング”は渡せないわ。それに地上に出てからの生き方はもう決めているの。貴方達の手助けはいらない」

自分達についてくるメリットを口説くエルヴィンにクイーンがつっけんどんに言う。
ファミリー創立当時からいた友人であり仲間でもあるツバキを調査兵団に?冗談じゃない。そんな危険を冒すくらいなら地下街にいた方が余程精神的にも肉体的にも安全だろう。
そう反対する彼女をリヴァイが眉を顰めて睨むがエルヴィンが仲裁に入った。何かを考えるように顎に指を添えてクイーンを見つめて、そして思いついたように一つ頷く。

「思ったんだが、もしかして“クイーン”は貴族の生まれかい?」
「あら・・・よく分かったわね。名前も知られていないような小さな家よ。ローゼが破られた頃に混乱に乗じて強盗に入られて一家離散。地下街で売られそうになっていたところを“キング”に助けてもらってそこから一緒なの。他にも同じような経緯でここに来た人が何人もいるわ」
「私達は地上に出る時は中央部の皆でと決めている。だから貴方達の誘いには乗れない」

堂々たる態度で向き合って断りを入れるツバキ。リヴァイは「どうすんだ」とでも言いたげにエルヴィンに目をやった。
人情溢れる良い話だが万年人手不足の調査兵団ではそんなことを考慮している余裕はない。ここまで来たのだから殴り飛ばしてでも連れていけばいいのに。

「そうだな・・・ならば一つ、勝負をしないかい?腕っぷしに自信があると言うし、このリヴァイと戦って彼が勝ったら君は大人しく私達と来る。君が勝ったら私達は今日のところは引く」
「馬鹿じゃないの、そんな条件の勝負に乗るわけないでしょう。だいたいこんな小さいのに“キング”が負けるわけ──っ!」

ギギギッ、と刃同士が擦れる耳障りな音が部屋に響いた。

挑発に乗ったリヴァイがブレードを抜くと同時にテーブルを押し投げてクイーンに切りかかったのをツバキが小刀で防いだのだ。
ツバキはすぐに彼を押し返して次に来た蹴りを体勢を落として避ける。立て直す前に小刀で薙ぎ払うが後退して避けられた。
互いが構えたまま一息つく。

「そっちの女と太刀筋と似ているな。テメェが仕込みやがったか」
「武器は正しく使えてこそだからね。
 ──クイーン、挑発が過ぎるよ。そこら辺のゴロツキとは違うのだから慎重にやってくれ」
「リヴァイも分かっていて乗るな」

それぞれが諫められて一旦その場が収まった。しかし一回荒んでしまっては仕切り直した方が良いだろう。
エルヴィンはそう判断して「今日はこれで失礼するよ」と肩を竦めて言った。

「またうちのが失礼をしたね」
「いや、本気ではなかっただろうが彼の動きを見ることが出来た。十分な収穫だよ」
「それを言うならお前の動きもな。思ったより手応えがありそうで安心した」

その後、ツバキとクイーンは二人を中部の門まで送り届けその足で人を集めて報告会を開いたのだった。


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