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その日、ツバキを筆頭としたファミリーの核を担う者達は会議室に集まってここ最近のとある件について話し合っていた。
今のところ大きな被害は出ていないが少し前に危うくファミリーの2が負傷しそうになったのが腰を上げる要因となったのだ。

「ツバキの言う通り奴等の身元を調べておいて良かったわ。あの情報がなかったら二人を中央部に招くことになっていた。・・・もっといい使い道があったはずなのに、ごめんなさい」
「何馬鹿なこと言ってるの。大きな混乱を避けられたし怪我せずに済んだんだから誰も文句なんてないわよ」

少々落ち込んだ様子の“クイーン”にツバキがそう言えば、周りから同意の言葉が上がって彼女は申し訳なさそうな笑みを浮かべる。
確かにもともと別で使い道を考えていたものだがあの時出してしまっても十分な牽制になるし主導権を握ることが出来るしで悪い事ではない。

そして、こうなったら次に相手がとってくる行動は恐らく大きく分けて二種類だ。
一つは体裁や報復を警戒して諦める。もう一つは利益を優先して続行する。

「・・・私は続行すると思う。来たのが幹部で、しかも地下街出身の人類最強とやらがメインになって動いてたから相手はかなり本気だわ」
「だな。巨人を恐れず外に出て行くような連中だ。ちょっと不利になったくらいで諦めることはないだろう」
「でもファミリーを無理に引き抜こうといざこざを起こしてると周りが知ったら、調査兵団をよく思っていない貴族様方がここぞとばかりに動くと思うけど」
「こんな時ばかり『地下街の人間とはいえ善良な民間人を』とか言ってな。奴等もそれは分かってるだろうし、かなり警戒してんじゃねェか?」

リヴァイ達が一回目にここへ来てからというもの色々と情報を集めたが矛盾しているものもあったし正確な推測が出来る量でもない。
時間を掛けて情報を吟味して少しでも気になる点は皆で話し合って、出来るだけ正確にまとめたがどこまで役に立たせられるものか。

会議が始まって数時間、そろそろ皆の集中力も切れてくるであろう頃に結論が出た。
相手が諦めようと諦めなかろうと警戒するに越したことはないと。そして続行してくる場合、次には調査兵団という事を隠さずにくるだろうと。
最優先は中央部の“ビショップ”──いわゆる一般人に当たる者達の安全だ。次いで中部の被害回避。混乱を招くことは避けたい。

「高台での見張りを強化し見つけ次第“キング”“クイーン”“ルーク”に通達。見張りのポーンも奴等が来たらすぐに上に話を通すよう伝えて。私とクイーンが対応する」

──────────

次に奴等が来たのは少し日を置いてからだった。
中央部高台の見張りからの報告でローブを着込み顔を隠して中部と外のつなぎ目へ向かっていたところで、ポーンからナイト、ナイトからルークに伝達されて彼等の到着が報告される。

「ツバキ、大丈夫かしら・・・」
「この姿の時は“キング”と呼んで男扱い、でしょ。そして私達はファミリーを統括する“キング”と“クイーン”だ。堂々とね。
 ──私が貴女を守るから心配いらない」
「あら男前。惚れちゃうわ」

そんな軽口をたたきながら門まで行けば背が高く紳士的な風貌の金髪と目付きの悪い東洋人風の男がいた。
背の低い方は間違いなく噂の人類最強、リヴァイだろう。もう一人の方は、と思い目を向ければ彼は一歩前に出て敵意のない笑みを浮かべた。

「初めまして。私は調査兵団団長、エルヴィン・スミスだ。
 先日は部下が失礼な真似をしたようで申し訳ない」
「いや、実力主義のこの地下じゃ喧嘩など日常茶飯事だ。・・・とは言えファミリーの領土内じゃ基本手足の出る争い事は禁止されている。踏み入るからにはこちらのルールに従ってもらいたい」
「あぁ、善処しよう」

──“キング”が彫られている首飾り
ツバキの首に掛けられているそれを確認したエルヴィンの目が獲物を見つけたように細められる。
てっきり屈強な男だと思っていたが想像していたよりも随分と若い声だ。背もリヴァイと同じくらいしかない。
流石に頭脳だけで地下の一角を牛耳るのは無理があるし、報告からしてその頭脳を担っているのが“クイーン”だから“キング”は腕っぷしが強い者が務めていると思っていた。

「おや、もしかして本物かと疑っているのかい?大丈夫、間違いなく私がこのファミリーを仕切っている“キング”だよ。人は見かけによらないというだろう?」
「すまない、思っていたより随分と若かったから驚いたんだ。うちのリヴァイもこう見えて人類最強と呼ばれるほど強いからね・・・君も腕っぷしには自信があるのかな」
「もちろんだ。なんならその人類最強と張り合えるかもしれないよ」
「それは頼もしい」

ハハハ、と笑って冗談を言い合うもお互いその眼は笑っていなかった。相手の腹の内を読み、何を言ってどう動けば主導権を握れるか、利益を出せるか、損害を出さずに済むかを探り合っている。
そうして表面上だけは和やかな挨拶を終えるとツバキは「立ち話も何だから」とクイーンと共に二人を前回と同じ応接室へ案内した。


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