stand up! | ナノ

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数時間後──

コンコンコン、と兵団の団長室にノックの音が響く。エルヴィンが入室許可を出す前に扉を開けて入ってきたのは地下から戻ってきたリヴァイとハンジだった。

「ただいまーエルヴィン!奴等のところに行ってきたよ!」
「ご苦労だったな。早速だが報告を聞きたい」

地下街から帰ってきた二人に進めていた書類を中断して話を聞く体勢をとるエルヴィン。
リヴァイとハンジは少し長くなるからと楽な立ち姿勢をとり、地下街での接触を頭にめぐらせた。

まずファミリーの生活圏は柵によって明確に区切られていた事。かなりの広さがあったから人数もそれなりにいるのかもしれない。柵の近くでは見張りや見回りがいて侵入者がいないか目を光らせていた。それなりに鍛えられていたため新兵辺りなら手合せに丁度いいくらいだ。

「あとさ、あとさ!“クイーン”に会ったんだよ!」
「“キング”の次は“クイーン”か」

ローブ着てて顔隠してたけど恐らくいい年の女だった。その女によるとファミリーの領土は地上をまねて中央部と中部に二分されていて中央部には主に結成当時頃からいた信頼できる人間が住んでいるらしい。
よって新米者が入れるのは中部までで中央部の人間と顔を合わせる機会はほとんどないとのこと。

「それと、“キング”やら“クイーン”やらと呼ばれている所以が分かった」
「そのままの意味じゃなかったのかい?」
「そのままと言えばそのままかもしれんがな。どうやらチェスの駒に当てはめているらしい。チェスと同じで上からキング、クイーン、ルーク、ビショップ、ナイト、ポーンだ」

見分けはファミリー全員が持っている首飾りのトップに彫られた駒の形でつく。ビショップ以上が中央部にいるが暮らしはあまり変わらないらしく、貧富の差による不満から余計な争いが起こるリスクを避けるためだそうだ。

「凄いな・・・想像以上のものじゃないか。ただそこまで統率がとれていると逆に引き抜きが難しそうだ」
「今日会った“クイーン”とやらが恐らくファミリーの頭脳だ。“キング”の野郎一人引き抜いても上手くやるだろう」
「ならいいんだけどね。それより二人共、一日目だというのに中央部にいるはずの“クイーン”に会っているとはどういうことだい?まさか騒ぎでも起こしたんじゃ・・・」

目敏く気付いたエルヴィンにハンジの表情が固まり、リヴァイが舌打ちを零す。だから言ったじゃないか。そうリヴァイを小突いたハンジはエルヴィンに疑惑の視線を向けられていることに気付いて「私の判断じゃないよ!」と両の手を振った。

「リヴァイが、今回の勧誘は自分がメインだからって強行突破したんだ!」
「結果噂以上の情報が入った。悪くない成果だろう」

様子見どころかガッツリ喧嘩を売った様子の彼に、エルヴィンは頭を抱えた。

──────────

それから日を置かずして今度はリヴァイとミケが地下街にいた。
見覚えのある見張りに「よォ」と声を掛ければ男がビクリと体を震わせる。

「な、何しに来たんだ!ここは通さないぞ!」
「なら“クイーン”を出せ。話に来ただけだ・・・大人しく呼んでこれば暴れるつもりはない」
「おい何なんだこいつ等。知り合いか?」
「ちげぇよ!さっさと他の連中呼んで来い。こいつ等腕っぷしが桁違いだ!」

前にもいた男がもう一人の男の背を押す。自分が足止めするからと。だが足止めする間もなく伏したのはその直後で、もう一人の男は目を見張って固まった。

結局“クイーン”を連れてくる流れになり男がひいひい言いながら呼びに行ってしばらく。
護衛のためかルークの首飾りを下げた者を連れて前と同様の姿で現れた彼女はリヴァイとミケを見て「あら?」と小首を傾げた。

「そちらの大きい方は、前の方とは違うのねぇ。名前は・・・聞かない方が良い?今回の呼び方は小さい方と大きい方で良いかしら」
「てめぇ喧嘩売ってんのか」

見たまんまを口に出した“クイーン”にリヴァイの額に青筋が浮かぶ。彼女は「あら怖い」とコロコロ笑ってミケに体を向けると礼儀正しく自己紹介と一礼をする。
ミケもよろしくと応えて、そして不意に“クイーン”の首辺りに鼻を寄せた。
がしかし。目の前をナイフがかすめて素早く身を引く。

「あまり近付かないでくださる?男二人相手に気を張らなければならないんだから」
「すまない、癖だ」
「匂いを嗅いで鼻で笑うのがな」

リヴァイが足りないところを補充すれば彼女はフードを被っていても分かる程引いていた。現に一歩足が後退している。
半径二メートル以内に入らないでと釘を刺して応接室に移動するとミケを警戒ながら今日は何をしに来たのと問うた。

「中央部に入れろ。“キング”と直接話がしたい」
「ダメよ。貴方達は素性が知れないしその強さが危険だわ。万が一内側に被害があってファミリー全体が混乱したら大変」
「そうか。なら──」

ガン!と鈍い音が部屋に響いた。
リヴァイが目でミケに合図をして目の前の机を蹴飛ばしたのだ。“ルーク”は“クイーン”を引き寄せてそこから飛び退き距離をとって構える。
硬直状態が続いて、そしてどちらからともなく足を踏み出した。拳や蹴りを防ぐ音が室内に立て続けに消えていく。

「チッ、あっちの奴もお前も意外と動けんのか」

“クイーン”と対峙していたリヴァイが眉を顰める。見張りがあの程度で、しかも今対峙しているのは女だからと甘く見ていた。生活ではなくこういう所で差が出ているらしく下っ端と違い二人共日頃から厳しい訓練を積んでいる身のこなしだ。
しかし勝てない程ではなかった。隙をついて後ろに回り、ナイフを喉にあてる。
程なくしてミケの方も“ルーク”を拘束していた。

「おいミケ、左頬が腫れているぞ」
「中々強くてな。何発かくらった。お前も腕が切れているが」
「この女がナイフを振り回すからだ」

不機嫌そうに息を吐いたリヴァイが「さて」と“クイーン”に目を戻す。
刃物をあてられても尚、彼女に動揺や諦めの様子は見られなかった。

「“キング”の所に連れて行ってもらおうか。下手な真似したら・・・分かってるな」

低い声で言うリヴァイに彼女はしばらく沈黙して、そして小さく息を吐く。ようやく観念したかと歩くよう促すが首を振られて眉を顰めた。「おい」と声を掛けるもそれを無視して彼女が口を開いたため言葉を止めざるをえなかった。

「外は楽しい?」
「あ?なんだいきなり。・・・まぁ地下よりかはマシなんじゃねぇか」
「そうじゃなくて。空は広い?馬で駆ける時に感じる風は違う?・・・怖いとは思わない?」

彼女の言わんとしていることが分かってリヴァイとミケは息を呑んだ。沈黙が続いてどちらも喋らない。
それから数十秒おいたところでようやく動き出したのはやはりリヴァイで、“クイーン”の拘束を解くとミケに一言「今日は帰るぞ」と告げた。
ミケは少し逡巡するも振り返りもしないリヴァイに“ルーク”の拘束をといて後を追う。

「・・・いいのか」
「お前も分かってるだろう。これは一旦エルヴィンに報告しなければならない」

──まさか、自分達が調査兵団だとバレているだなんて。


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