4 「この先が奴等の縄張りか・・・」 黒いローブを羽織り、更にフードで顔を隠したリヴァイとハンジは薄暗い地下街にいた。聞いた話を頼りに警戒しながら歩けば壁のように立ちはだかる木の柵の前に辿り着く。 その柵に沿って辺りを見渡すが入口らしきところは見えなかった。 「中に入るにはどうしたら良いんだろう。敵の侵入を防ぐために隠し通路とかを使ってるのかな」 「さぁな。取り敢えず全体を把握するぞ」 柵に沿って歩いて様子見をするらしい。さっさと歩きだすリヴァイを柵を見上げていたハンジが慌てて追いかける。 しばらく歩いて分かったことはファミリーが陣取っている土地が中々に広い事と地下洞窟の壁から円を描くように柵が張り巡らされている事、柵の隙間から見える一帯が奥に進むにつれて少しずつ高くなっている事、一応見回りがいる事、そして── 「奥の方にもう一つ壁のようなものがあるな」 「地上と同じように生活圏を区切っているのかもねー」 隙間から遠くに見え続けていた壁のようなもの。地上に似せて区切ったのだとしたら自分達が近いうち接触しなければならない“キング”とやらはあの壁の奥にいることになる。 「──ねぇリヴァイ見て!入口発見!見張りがいるよ」 考察しながら歩いていればハンジが遠目に出入り口を見つけて声を上げた。リヴァイは黙れ気付かれると眉を顰めて言うと相手が此方を向いていないことを確認。一旦柵から離れて近くの廃墟に身を隠す。 見張りをこっそりと窺い見てみれば体形は割と大柄、筋肉がついており恐らく戦える人間なのであろうと予想できた。 「どうするリヴァイ。今日は一旦引いてエルヴィンに報告する?」 「馬鹿か。ここまで来といてそれはねェだろ」 「でも相手の情報が少ないし変に刺激してやり合う事になったらマズいでしょ?」 「調査兵団だと気付かれなけりゃ問題ない」 人数は柵の開閉部分に二人、少し離れたところに一人、すぐに駆け付けられる場所に二人。 そこら辺にいる普通のゴロツキなら突っ込めば全員向かってくるだろうが統制がとれているという奴等は侵入者がいた場合恐らく足止めと報告・増援要請の二手に分かれる可能性が高い。 とっとと内側に入るために奇襲をかけるか、多少手間でも交渉するか。 「・・・面倒くせぇ、ごり押しすんぞ」 「え、ちょっとリヴァイ!エルヴィンの言った事覚えてる!?」 「俺がメインに勧誘するんだろう。失敗したならエルヴィンの人選ミスだ」 止めても止まらないリヴァイにハンジが焦る。 様子見だと言われたのに初っ端からドンパチをやらかしては全てが台無しだ。 なんとか説得を試みようとするも既に彼の考えは固まったようで移動し始める。どうやら建物側を回って入口までの最短距離につくらしい。 計画がおじゃんになって謹慎でも喰らったらどうしてくれるんだ。 「俺が奥の三人をやる。テメェは入口の二人だ。しくじんなよ」 「だから今回は様子見だって──あぁもう、分かったよ」 すっかり戦闘モードに頭を切り替えたリヴァイの鋭い視線が突き刺さってハンジは肩を落として降参した。 接近して友好的に話しかけたところで一気に叩くらしい。しかも話しかけるところから最初の一撃も任されて、やれやれと気が進まないままリヴァイの前を歩き出す。 「すいませーん、ここのボスに会いたいんだけど今いるかな?」 「なんだお前等。入団希望者か?」 「そうそう。最近地上から来たばかりでさ、困っていたんだ」 「ったく、呑気な奴だな。地上から来たんなら仕方ないが・・・まずはローブをとってついて来い。色々と話を聞かなければならないからな」 そう言って見張りが踵を返したのと、ハンジがその彼の背に思いっきり回し蹴りを入れたのと、リヴァイが奥の見張りに向かって駆け出したのは同時だった。 回し蹴りを入れた彼が膝をつくのを横目で確認しながら竦んで動けないもう一人の腹に拳を入れて沈める。起き上がってきた最初のにも腹に決めてこっちは完了だ。 そしてリヴァイの方はと見てみれば一人は沈んでいて、逃げようとしていた男に鷲掴んだ男を投げつけて足止めしたところだった。 積み重なって倒れる男を一人は首に手を回し一人は背を踏みつけて順に止めを刺そうとしている。 「リヴァイ、流石に殺しちゃまずいって!」 「意識を落とすだけだ。そこまで下手じゃねェ」 グッと腕に力を入れれば男に苦悶の表情が浮かんだ。 大声は出されていないし一人も逃していない。あとは二人を沈めれば第一段階はクリアだ。 しかしそう思った矢先、リヴァイの目の前に鈍く光るナイフが迫って彼は反射的にそこから飛び退いた。 コツリ。ブーツの踵が地面を叩く音にリヴァイとハンジが振り返る。 「外からこっちを窺っていた怪しい二人組って貴方達よねぇ。ファミリーに手を出すべからずって暗黙の了解を破るのは余程の馬鹿か地上から来たばかりの新入りだけだけれど、貴方達はどちらかしら」 青いローブ、目深に被ったフード、石のトップが付いた首飾り、声は成熟した女のものだ。 リヴァイの足元に伏す男は女を見て目を見張り、 ──クイーン様 そう、小さく呟いた。 [ back ] |