stand up! | ナノ

3

この地下街に来て既に五年以上の──七年だっけ、八年だっけ。まぁたぶんそれくらい──年月が経った。
真っ白な状態から信用できそうな人を集めて、過去に住んでいた里のシステムをまねて統治を始めて。
楽な事ではなかった。いつの間にか攫われて帰らなくなった子供や仲間の裏切り、縄張り争い、弔い合戦。人数と食べ物の比率が合わずひもじい思いだってした。

しかし此処最近は大分安定している。古参組は心から信頼できるし管理している領土内なら安全だ。
建物の修繕をして寝床を整え、日の光が漏れる場所では細々ではあるが野菜の栽培をし、学び舎を作り教養を積ませ──年々発展していく環境にかなりの手ごたえを感じている。

当時はこんな無法地帯に住む人間を信用できるのかと心配していたが実際のところ望まずに地上から堕ちてきた人間もなかなかに多く常識を持っている者も少なくなかった。
というのも少し前に壁が破壊されたらしい。三重になっている壁の、一番外側が。
この世界の事は色々と学んだが人を食べる巨人から身を守るために壁の中に住んでいるという事実は衝撃的だった。
まぁ地下に住んでいれば無縁なのだが。

「──では二週間分持ってきたのでいつも通り一日三回、お食事の後に飲んでくださいね」
「いつも悪いねぇ。こんな良く効く薬、余所様に売れば高いだろうに・・・」
「もう、何言ってるんですかー。血は繋がっていなくても家族なんだから遠慮しちゃだめですよ。次があるので行きますけど何かあったら娘さんに言ってすぐに私を呼んでくださいね」

医療の知識があるツバキは各家庭を回って薬を届けていた。
本当は診療所を建てて医師を常駐させたかったが余所の医師を謳う人間は胡散臭くて呼べないし、見習いはいれども医療人を一から育てるのにはかなりの手間がかかる。よってツバキはファミリー内では唯一の医師なのだが彼女もまた他にもやることがあって中々こまめなケアが行き届かない。

この後もまだたくさんの家を回らなくてはならなかった。
そんな時、次に向けて歩いていたツバキにファミリーの一員であり見張り番をしていた男が少し慌てた様子で駆け寄ってきた。

「すいませんツバキさん!今いいですか?」
「薬を届けに家を回っているからあまり時間は取れないけど少しなら。急ぎ?」
「急ぎではないですがうちのテリトリーを外から窺ってるやつがいるんで一応耳に入れておこうと思って・・・」
「あら、また襲撃かな・・・。ここ最近は平和だったのに」
「見たところ人数は二人なんでその可能性は低いかと。うちに入りたいか、入るふりして潜入に来た輩じゃないでしょうか」
「そうかもね。どうしようかな・・・どの道すぐに決められることじゃないし取り敢えず"クイーン"に様子を見るように言ってくれる?確か手が空いてるはずだから。私はこっちやらなきゃだし」

腕にぶら下げた薬の袋を揺らして申し訳なさそうに頼めば男は了解の意を示して踵を返した。
誰が何の目的で来たかは知らないが"クイーン"は頭が回る右腕だから心配はいらないだろう。戦うことなく穏便に済んだらいいなと思いながら、ツバキは再び薬を届けるために歩き出した。


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