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唯一壁外に遠征し、王政府の拡大政策を担う兵団──調査兵団。
その兵団の団長室ではエルヴィンに呼ばれたリヴァイ、ミケ、ハンジが顔をそろえていた。

「で、何の用だ。掃除を中断させてまで呼びつけたからには余程急ぎの用事なんだろうな」
「そうカリカリするなリヴァイ。この時間が一番集まりやすいと思ったから呼んだだけで火急という事ではないよ。まぁ急ぎではないだけで重要ではあるがね」

苛立つリヴァイに苦笑いを向けて諫めたエルヴィンは改めて三人を見渡した。それなりに長く付き合ってきた信頼できる仲間で、特にリヴァイは今回の案件には適役である。
書類が山を作る机で肘を付き手を組んだエルヴィンは最近耳にした情報を頭に巡らせながら口を開いた。

「かつてリヴァイが住んでいた地下街に近頃新しい派閥が出来たのは知っているかい?」
「いや、知らないな。地下街の情報はほとんど入ってこない」
「私も巨人の事で頭がいっぱいだからねー。そこまでは手が回らないかな」
「俺も知らんな。なんだ、また目ぼしい奴がいたのか」

少し考えるも特に記憶になく首を振るミケとハンジに、過去を思い出して少し顔を顰め自分の二の舞になる人間がいるのかと問うリヴァイ。
エルヴィンは軽く頷くと「あまり詳しい事は分からないのだが」と前置きをした。

どうやらファミリーと呼ばれる集団があるらしい。幹部組の結束力が強く、無法者が蔓延る地下街において非常に統率のとれた集団であるとのこと。
きっちりと自分達の領土を確保して“キング”を筆頭に統制されており、まるで壁内の様相を縮小しているようだという噂だ。

「ハッ・・・“キング”たぁ大層なこった。あんなゴミ溜めで王様気取りかよ」
「いや、ゴミ溜めで成すからこそ凄いんじゃないか。無法地帯に住むような輩は人間性が知れている。それを集めて統率のとれた一団体に作り上げるのは並の事ではない」

まだ人から聞いた話でしかないが、ただ力でねじ伏せて従わせた寄せ集めではなく“壁内を縮小しているかのよう”とまで言われたのだ。

上に立つ人間はどんなものだろう。きっと頭脳に秀でていて、統率能力に優れた者だ。腕っぷしも強ければ尚良しだがそこは役割分担などをしているかもしれない。そうなれば腕の立つ者も一緒に来てもらえると良いのだけれど。

「また俺達の時のように一人か二人適当に捕まえて芋づる式に吊し上げるか」
「いや、奴等は別段犯罪を犯しているわけではないからな。下手に脅迫でもしたら逆に調査兵団を良く思っていない連中に迫害疑惑でもかけられかねない」

そこが厄介だとでも言いたげに短く息を吐くエルヴィン。リヴァイの時は立体起動装置の無断使用やその他諸々の犯罪履歴のお蔭で堂々と追い掛け回し結果強制的に調査兵団に取り込むことが出来た。が、今回はそれとはわけが違う。
相手は無法地帯に住みその一部を牛耳っているとはいえ一定以上の犯罪を犯したという情報は入ってきていない。

「つまるところ正攻法で勧誘して来いってことかな」
「あぁ。場合によっては力尽くでも構わないがな。そこの判断は任せる」
「三人とも行くのか?その間こっちの業務はどうする」
「今回の勧誘は地下街出身のリヴァイをメインに行ってほしい。ミケとハンジは勧誘と業務のサポートだ」

本当は自分が行ってこの目でどんな人物か見極めたいのだが、と言うエルヴィンだが兵団のトップがそう簡単に留守にするわけにもいかないだろう。
少なくとも少し前にあった壁外調査の後始末が片付くまでは。

「まぁまずは様子見だな。リヴァイ、ハンジ、二人で行ってくれ」
「よりによってコイツとか・・・」
「ファミリーってどんなだろう!楽しみだね、巨人仲間が出来たらいいなぁ!」
「・・・この二人か」

うんざり顔のリヴァイとまだ見ぬファミリーに心躍らせるハンジ、その組み合わせを少し心配そうに横目で見るミケ。

こうしてファミリー勧誘作戦は幕を開けたのである。


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