長編、企画 | ナノ

翻弄するのは


「−高さとかパワーとか"シンプルで純粋な力"っつうのは、一定のレベルを超えてしまうと途端に常人を寄せ付けないモンになってしまうよな。」

鳥養(元)監督の言葉に跳子が唇を噛む。しかし監督はニヤリと笑って言葉を続けた。

「−少なくとも、真っ向勝負では。」
『!!』


烏野のタイムアウト。
自身のブロックの上から打たれる事に焦る日向に、澤村と西谷が声をかける。

「まぁ落ちつけ。」
「そうだぞ!空中戦だけがバレーボールじゃないぜ翔陽。」

地上戦の覇者であるリベロの西谷が勝気に笑う。

「これは事前に鈴木からも伝えられていた事だが…ここまで見て来た感じでは角川の9番、恐らく、コースの打ち分けができない。」
「身体の向きそのままのクロス方向にだけ打ってくる。」

澤村・西谷の言葉を受け、鳥養も同意見だとばかりに頷く。

「ビデオや練習を見た感じも、あの9番はまだバレー初めて間もないと思う。」

結局百沢がスパイクを打つ際には、ストレートを捨て、レシーブのフォーメーションをクロス側に寄せて対応することになった。

そしてタイムアウト明けにかろうじて烏野が1点を返す。

「−…今日はなんかイイ。」

静かに自分の好調を確信した影山が澤村に告げる。

「澤村さん。」
「お?」
「今日なんかイイカンジなんで、新しい速攻やっていいスか?」
「!!」

角川学園の選手も日向と百沢の身長差に同情して日向を見るが…
そこにはそわそわうずうずと鼻息を荒くして嬉しそうな日向の姿があった。

「!?え!?何!?すげぇギラギラしてる…何だアレ…」
「うちの犬、腹ぺこの時エサ見せるとあぁいう顔する…」

ギャラリーの跳子と谷地もその解りやすい表情の変化を見て理解する。

『仁花ちゃん…。ありゃ、やるね。』
「跳子ちゃん…。そうだね。絶対やるね…。」


百沢のスパイクを、身体の正面で西谷があげる。
そして百沢の視界内で日向が動くが、古牧の丁寧な口調を思い出す。

−あの10番がどんなオカシな動きをしようともブロックの時は球だけ追えばいいです。−

そうだ、ボールだけ追えば十分に間に合うと言われていた。
ボールは今、セッターの手元にある。

(…ボールだ)

け、と思う間に日向が空中にすでに居た。
追っていたはずのボールが、体はおろか目で追う事も間に合わずにコートの後ろでドパと跳ねる。

会場が、ギャラリーが湧き上がる。

「うおおお!!出た!IH予選でやってた"超速攻"!!」

それを聞いた谷地と跳子が緩む顔を抑えようとヒクついた顔になる。

(ふふふ…ソレとはチョット違うんですな。ふふふ!!)

「やっちー、顔ヘンだよ。」

(彼らはね、あの時よりもすごく進化したんですよ奥さん。)

「跳子ちゃんも。どうしちゃったの??」

鳥養(元)監督は先日自分の家のコートでその速攻を初めて見た時の事を思い出す。

「…恐らくこの予選ダントツの最高身長であろう201cm…そいつを最も翻弄するのは162cmかもな。」
『…!ハイ!!』


太刀打ちできない高さ。でも戦う方法はあるハズなのだ。
烏野の誇る最強の囮が満面の笑顔を浮かべている。


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