長編、企画 | ナノ

"恵まれる"


201cmという驚異の長身の持ち主・百沢擁する角川学園との一戦。
これに勝利をしないと途絶えてしまう春高への道。


跳子も今回はボール出しを手伝うために皆と一緒にコートに入る。
烏野のコートに女子マネージャーが3人揃った事で別の意味でも注目を浴びるが、そうとは知らないマネージャーたちがコートで何やら話をしていた。

「ひ…日向は大丈夫でしょうか…?」

つい月島の言う"フジクジラ"に食いついてしまった谷地が恐る恐る口にする。
視線の先にはビクビクしている日向が映っていた。

「ああ…多分大丈夫だよ。試合前あんなでもね、コートに入ったら"関係ない"って顔になるんじゃないかな」
「おおお…!」

清水の笑顔と言葉に安心した谷地が跳子に話しかける。

「跳子ちゃん、潔子先輩さすが解ってるって感じだね…!」
『…うん…。』
「跳子ちゃん?」

跳んできたボールを器用にキャッチしているが、跳子の様子がおかしい。
谷地が覗き込むと、跳子がハッとして顔を上げた。

『…はっ!フェアリーペンギンも40cm…!』
「跳子ちゃん、まさかフジクジラに対抗意識!?」


公式WU開始と共に、セッターがネットについてボールを上げる。

(みんな、調子良さそう…!)

皆の顔には程よい緊張感が走っているのが、すぐ近くだとよくわかる。
特に影山は、合宿最後の梟谷戦の、あの研ぎ澄まされた空気を纏っているように感じた。

「−影山くんは今日とても調子が良さそうですね?」

それを見ていた武田が鳥養に話しかける。

「先ほどの扇南戦もサーブ凄かったですし、それに何だか−静かだ。」


「うヒェッ」

角川学園の百沢のスパイクが山口の頭をかすめる。
その角度・威力共に申し分のないスパイクを見て、跳子が澤村と西谷に駆け寄っていった。
前の試合を観て気づいたある可能性について、鳥養とレシーブの得意な二人に跳子は試合前に話してあった。

『先輩…。やっぱり、可能性は高いと思います。』
「あぁ。しかし試合でもう少し様子を見よう。」
「そうッスね。」


公式WUが終了し、コートに向かう皆の背中を見送ってから、跳子は谷地と共に応援横断幕の後ろに向かった。
胸が高鳴り続けている。

(…アレ?)

横断幕脇には、どこかで見たことがあるような顔立ちの、年配の方がいた。
一緒にいた子供たちが谷地に向かって手を振る。

「跳子ちゃん、こちら鳥養コーチのおじいさんだそうです。」
『えっ!?』

(あの名将・鳥養監督!?)

『よ、よろしくお願いします!!』
「お、おぉ。」
『日向くんと影山くんから聞いています!あのっ、今度ご迷惑じゃなければ私にも色々とご指導いただけませんか!?』

前のめりになりそうな勢いの跳子に、鳥養(元)監督が思わず笑う。

「孫の嫁に来てくれんならな。(笑)」
『えっ鳥養コーチの、ですか!?私なんかじゃなくても、コーチなら決まったお相手がいそうですけど…。』
「いたら畑仕事→店番→コーチなんて生活してねぇだろ。」

まぁもちろん冗談だがな、ともう一度大きな声で笑った。


試合開始の笛が鳴り、ギャラリーも真剣な顔でそちらに向き直る。

最初は月島のサーブで試合が始まった。
サーブをキレイにあげた角川学園が、早速百沢にトスをあげる。
日向・影山・田中がブロックの準備をするが…

(−上、から…!)

ジャンプをした2mの巨体は、完全にブロックの上からスパイクを決めた。

続く攻撃でも、日向が咄嗟にフェイントに切り替えるも百沢の伸ばした手にいとも簡単に捕まる。

「…やはり身長てのはどんな才能よりも"恵まれる"って言葉が似合うモンだな…。」

隣で大野屋のおじさんが呟いた。
跳子が百沢を見つめる。

(高さ…確かにたったそれだけで、バレーボールでは強力な武器になる。でも…)

確かにレシーブさえ上がれば、どんなボールもチャンスボールにできる高さだ。


月島は、先日久しぶりに話をした兄・明光との会話を思い出す。

−…一人の大エースとか一人のチョーデカい奴が居る事が勝敗を分ける事だってある−


烏野 1-4 角川学園

烏野が1回目のタイムアウトを取る。

角川学園は、周囲からのやっかみとも取れる反応を受けているのを理解していた。

「気にすんな。百沢が活躍するって事はそれだけ俺たちが繋いだって事。影が薄かろうともな!」
「−そうですね。俺たちは百沢を活かす為の仕事を全力でするだけ。ワンマンと言われようと、それが俺たちの"勝つスタイル"です。」

百沢が烏野の日向の方を見つめる。
必死に跳んでいるのに、身長の差だけでバレーを初めてまだ半年の自分に勝てない残酷な現実。

「…バレーってパスとか難しいけど…なんつーか…」

−単純ッスね−


(でも…そんな単純じゃない。)


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