長編、企画 | ナノ

40cm


跳子の観る次の試合である西田vs角川学園の試合はまだ公式WUも始まらないようだ。
観覧席で会場を撮れる場所を確保すると、跳子は烏野のコートを遠目に見る。

烏野コートの主審の笛が鳴った。公式WU終了の合図だ。
コートの両サイドに立つ選手たちが互いに挨拶をし、円陣を組む。

「烏野ファイ!」
「「「オース」」」

澤村の掛け声に合わせて、跳子も谷地も小さく"オース"と口にする。

春高での、烏野の初試合の開始だ。
東峰がジャンプサーブでしょっぱなからノータッチエースを決める。

(よしっ!!)

皆の調子は悪くなさそうだ。
跳子が小さくガッツポーズを決めた頃、目的である西田vs角川学園の選手たちがコート入りし、各校応援の声が響いた。
鳥養との事前情報での注目選手は、一際飛び出て目立っている角川学園の百沢だ。

(高1で201cm…!見える景色とか違うんだろうなぁ。)


西田のタイムアウトにより、一度試合が止まる。
2mの身長の加入によって、試合展開がこんなにも変わるものなのかと跳子は驚いていた。

伊達校は高身長を防御に利用していたが、角川はとにかく攻撃を止めずに続けていた。
メモを書く手を止め前を向くと、扇南のコートから一際大きな雄叫びが響いた。

「烏野を倒す!!一次予選突破!!打倒白鳥沢!!!」
『!?』

第1セットを終えたらしい扇南の主将が大声で叫ぶ。
彼はそんなキャラクターではないと思っていた跳子がビックリする。

(悔しいと思えるのなら、きっとあの人たちも強くなる。)

それに応えるのは田中を始めとした、烏野の面々だ。

「受けて立ァーつ!!」


そのまま第二試合で扇南高校を下し、無事初戦突破した烏野メンバーが、体育館の入り口から西田vs角川学園の試合の終盤を覗き見る。
2mの百沢のプレイに皆驚きを隠せず、谷地に至ってはプルプル震える一方だった。
第二セットを25-19で獲った角川学園が次の対戦相手に決まった。


跳子が皆の元に降りてきて合流する。
今回の予選は2回試合があるだけなので、次はずっと皆の応援ができる。
鳥養にビデオを渡して話し合いを始めた。

『…さすがに初めてみました。2m。ワンマンとは言われればそうかもしれないですが、彼を生かすことを中心に考えた最善の策を取ってますし、それができる地力もあります。』
「ふむ…。」
『ただ彼の動きは…まだ初心者なところも多いです。周りがうまくフォローしてますが…。』
「攻撃は高いけど、防御はまだ弱いってところか。じゃあうちとは壮絶な殴り合いの試合になるかもな。」


鳥養との話を終え、跳子が皆の元へ向かう。

「次の試合を勝てば一次予選突破で10月の代表決定戦へ進める。ッ絶対突破するぞ」
「「「ウス…!」」」

(…本当に…一回負けるだけで終わりなんだ…)

谷地がトーナメント戦の怖さを実感している時、角川学園が後ろから通り過ぎて行く。

「うヒェッ!?」

見下ろされて陰になる日向が恐怖の声を出し、隣にいた澤村も驚きを隠せない。
近くに来ると2mという大きさがさらに際立つようだった。

「ううぅ…2mでっけぇなあ」
「201cmと162cmか…。」

日向の呟きに対して山口が口にするが、すぐに日向が反論する。

「四捨五入したらおれは163cmです!」
「201cmと162cm…約40cm差か…」
「聞けよ!」

日向をあえてスルーして月島も神妙そうな顔をする。
慌てて間に入る谷地。

「よっ40cmなんてキーテイちゃんと同じサイズだよ!そんなに大きくないよっ!ね、跳子ちゃん!」
「それはフォローなの?」
『フトアゴヒゲトカゲも40cmだなぁ。』
「フトアゴヒゲ…?なんかすごいね…。」

山口と月島が続けた。

「テカチュウも確か40cm。」
「フジクジラも。」

考えていたはずの山口がその言葉に食いついた。

「なにそれ!」
「サメの一種。」
『そうなの!?だってくじらってついてるのに?』
「おぉぉっ…!」
「ツッキー博識!」

すっかり話題から離れてしまった日向がフラフラとその場を離れて影山に話しかける。

「おれ……フジクジラと合体したい…」
「は?」
「フジクジラと合体すればおれは2mだから…。」
「おい何を言っている?」

2m2mとブツブツ言う日向を、影山が睨むようにしながら聞いた。

「…お前本気でビビってんのか?」
「?え?」

ピピーーーーッ

「行くぞ。」

ホイッスルと共に澤村の声が響いた。

二回戦の、開始。
201cmに挑むのは、162cm…もとい163cmのMBだ。


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