長編、企画 | ナノ

最終日


遠征合宿もとうとう最終日を迎えた。長かったのか短かったのか、今となってはよくわからない。
ただとても内容の濃い7日間になったのは確かだった。

やはりここでの最強は梟谷、ついで音駒となっている。

烏野は負け通しではあったけれど、皆何かが変わった。
弱くなったわけではなく、高く飛ぶためにはまず一度しゃがみこむ必要があったのだ。
そのためにも、この一週間はとても他には替えがたい経験ができたと言える。

跳子にとっても例外ではない。
間近で見せてもらった音駒の戦い方や猫又監督の言葉は貴重な体験となり、またたくさんの人との交流を深められたのだ。

(それに…。)

跳子はふとこの数日を思い出す。
バレーボールとは別のところで、澤村との忘れられない思い出も増えた。

(告白は…できなかったけど。でも幸せな時間がたくさんあった。)

だからだろうか−。
昨日はいつの間にか眠ってしまったが、すごく幸せな夢を見れた。
ほとんど覚えていないけれど、澤村に優しく好きだと言ってもらったような気がする。
後から澤村が運んでくれたと聞き、恥ずかしくてまだ今日は話せていないが、後でゆっくりお礼をしないといけない。


全学校最終戦。
跳子がいる音駒が森然と戦う隣では、烏野高校が梟谷に挑んでいる。
木兎の雄叫びが響き思わず振り向くと、その声に呼応するように皆の士気が高まるのが見てわかった。
そして広がる笑い声につられるように跳子もクスリと笑った。

(スゴイ人なんだよね…木兎さん。)

誰も寄せ付けないような牛島の強さとは違う、むしろ仲間も観客も敵すらも惹きつけてやまないような力の持ち主。

「木兎、うるせーな。」

呆れたように言う黒尾もなんだかんだで笑っているので、そんな仲の良さにも跳子は心が温かくなるのだ。

「んでも跳子ちゃんもこっちに集中なー。妬けちゃうから。」
『わっ!ハイ!ごめんなさい!』

("妬ける"とかをこんなにキレイにスルーされるとなぁ…。)

黒尾が跳子の髪をくしゃりと混ぜた。


森然のタイムアウトで、皆が集まる。
いい状態なのでこのまま流れを切らさずに行くため、特別な事は何もしないで水分補給を主とした。
ボトルとタオルを渡していると、跳子は背中にゾクリとする気配を感じ取って思わず振り向いた。

(今のは…影山くん、から?)

跳子の目に入った影山から、冷静とも淡々とも違う、静かな熱のようなものを感じる。
五感の全てが研ぎ澄まされているようでもあり、彼の周りだけ落ち着いているようでもあった。

(何か、起きる−?)

日向が飛び出した。影山がチラリと見る。

(新しい速攻はもっと成功率をあげてからにしよう−)
(影山くん、イケるよ…!)

「やんねーの?」
「!」

ボール、来る そんで−−−止まる。

日向のスパイクが、決まった。

「「〜〜〜!!!」」

『やった…!』

そして跳子と同じように研磨と黒尾もそれを見ていた。

「…翔陽は、いつも新しいね」
「!」
『新しい…確かにそうかも。』
「…もしチビちゃんがウチに居たら、お前ももう少しヤル気出すのかね。」

絶えず進化を続けるような日向が隣にいたら−?
しかし考える間もなく、研磨は即答で答える。

「翔陽と一緒のチームはムリ。」
「?なんで」
「常に新しくなっていかなくちゃ翔陽にはついて行けなくなる。−そんなの疲れるじゃん?」
『あはっ!でも毎日新鮮で刺激的だよ、きっと!』
「でも、同じチームはやだ。」
「…ふーん?」

そしてタイムアウトが終わり、研磨が黒尾にからかわれながら二人とも試合に戻る。

『だから、皆も負けないようにどんどんと進化できるんだ。…例え怖くても、仲間に負けないように。』

(…でもそれは、土台が−基礎がしっかりしてるからこそできること。)

跳子の目に1番のビブスが目に入る。

(先輩たちが積み上げてきたから、日向くんたちが生きるんだ。…頑張りましょう、先輩。)


結局木兎の復活により烏野の勝利とはならなかったが、皆自分たちの新しい武器も確認できた。
そして反省点も。


跳子は音駒の試合が終わると、そのままBBQの準備を手伝う。

『うわぁこんな量のお肉見るの初めて…!』
「圧巻だね…!」

そこにあるのは大量の野菜と…肉の山だ。

『とりあえず、ご飯を研ぐのは終わったので私は野菜切りましょうか。』
「仁花ちゃんはお肉の下味をお願いね。」
「ハイ!あとご飯炊けたらみんなでおにぎりですね。」

試合が終わっても自主練に励む選手たち。
彼らのエネルギーを、筋肉を修復するためにも食事があると教えられた。

跳子はグッと気合いを入れ、改めて腕をまくった。


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