長編、企画 | ナノ

太陽よりも罪なヤツ


合宿4日目、昼。


「っひゃふーーっい!!」
「コラーッ!!飛び込むんじゃなーーいっ!!」

練習の合間に約束のプールを堪能する部員たち。
一度に入るのは人数的に無理があるため、各チーム半数ずつ交代で入り、その間残りのメンバーはあの体育館で練習中である。

烏野はくじ引きで前後半を分けた結果、幸か不幸か日向・田中・西谷の問題児3人が同じ組になってしまい、さらにそこに音駒のリエーフが加わったことで、すっかり引率者状態の澤村の怒号が飛ぶ。

「すげ〜な〜澤村。笛とかぶら下げた方がいいんじゃねーの?」
「プールの監視員扱いするな、黒尾!」

ぷかぷかと浮かぶ黒尾の隣に並ぶようにプールに入った澤村は大きくため息をついて、果たしてこれは自分にとってリフレッシュや体力づくりになるのかと考える。
ただただ精神を磨り減らしているような気さえしていた。
しかも問題はそれだけではなく…

「「「ぅおおおおぉっ!!」」」

途端に男たちが小さくどよめく。
頭を抱えていた澤村が顔を上げると、入り口からマネージャー陣が入ってきたところだった。

(っ!!)

前半組に一緒になるマネージャーは、烏野の3人だけだ。
パーカーを羽織ってはいるが、その下は持参の水着姿である。
ひゅぅと隣で黒尾が口笛を鳴らした。

(〜〜アイツはなんであんな水着で…っ!)

恥ずかしそうに清水の後ろを歩く跳子の姿に、澤村はひたすらに目を奪われる。
予想外のビキニだった。


「おーっ!跳子…っ!!」
「まだ勝負はついてないぞ!逃げんな!」
「日向!離せよっ!」

その姿に反応したリエーフがプールからあがろうとするが、日向がそれを食い止める。

(日向、ナイスだ。)

今ならどんだけ暴れようともその危険な獅子を止めてくれるなら構わないと、澤村が一人頷く。

そして澤村の存在に気付いた跳子が、恥じらいながらも満面の笑みを向けて手を上げる。

(うっ。いつも以上に、クル…!)

『澤村先輩!黒尾さんも!気持ちよさそうですね!』
「よぉ。」
「…おぉ。もう入れるのか?準備運動はしてきたか?」

少し目をそむけながら言う澤村の言葉に、跳子が笑った。
そして二人がプールからザバっとあがってきた。

「澤村。お前ってほんと保護者色強いよな。」
「なっ…。お前もうちの連中見てたら解るだろう…!」

二人で話す烏野・音駒の両主将の姿をチラリと見て、跳子がまた頬を染める。

(…カッコイイ、な。水着姿…!着替えてるのとかで見慣れてるハズなのになんでだろ…!水の力?濡れ姿だから?っていうか私変態なのかな…。)

顔がカァっと熱くなって手で仰ぎながら視線を上げると、黒尾がじっと跳子を見ていた。

「…へぇ、いいねぇ。跳子ちゃん、出るとこ出てんのな。」
「バッ…!」
『えっ!?』

ニヤーっと笑う黒尾の言葉に、跳子は慌てて腕を回してお腹を隠すように抑える。
それによってまたさらに胸がググッ寄せられ、谷間が深さを増した。

『やだ!黒尾さんそんなの思っても言わないでくださいよ!』
「…そっちじゃねーんだが。まぁ結果オーライだな。」
「…オイ黒尾。話がある。鈴木はもう早急に水に入りなさい!」
『?あ、ハイ!』

猫のように背後から笑顔の澤村に首根っこをつままれ、黒尾が引っ張られていく。

「いって、澤村!そこ肉…!」
「るさい!!」

跳子は澤村に言われた通りプールに入るために、羽織っていたパーカーをベンチに置きに向かった。
今日も日差しが強いので、日焼けしてしまいそうだ。
丁寧に畳んで、プールに戻ろうと引き返す。

「…鈴木。」
『月島くん!眼鏡ないから一瞬誰かわからなかったよ!』

話しかけてきた月島に近寄り、彼の顔も少し赤い事に気付いた。

『あれ?月島くん。ちょっと赤いね!日焼けしちゃった?』
「…いや…、いいから入ろう。」

ゴニョゴニョと言葉にする月島を疑問に思いながら一緒に水に入る。

『わーー、気持ちいー…!』
「…鈴木。あのさ…なんで、その水着なわけ?」
『えっ?やっぱり変だった?』

わたわたする跳子に月島は目をそらしながら口にする。

「…いや、かわ…変じゃないけど、意外。」
『時間あったらちえとゆかとプール行こうねって話になって、こないだ一緒に買いに行ったんだけど…!何度も似合わないって言ったんだよーー!』
「いや、だから似合わないなんて言ってないでしょ。…ってちょっと待って。そのプールって3人でいくの?」
『?うん。そのつもりだけど…。』

(あの二人も黙ってれば結構だし…なに考えてんだよ…!)

眉間に深い皺を携えたまま数秒考えていた月島が、跳子の方を向き直る。

「それ、僕も行…」
「ヘイヘーイ!ツッキー!!」
「うぐっ」

後ろから木兎の腕が月島の首に回る。

「勝負しようぜツッキー!勝つのは俺だけどなー!」
「ちょっ、木兎さん!今…!」

そのまま後ろ向きに流れるプールのように連れて行かれる月島を跳子がポカンと見送っていると、スッと赤葦が隣に並んで月島に申し訳なさそうな顔を向ける。

「なんか、ごめん。」
「謝るくらいなら止め…!」
「ハッハッハ!俺最強〜!」

そして響くのは木兎の笑い声。

『…はぁぁ。本当に仲良しですねー。木兎さんと月島くん。』
「…仲良し、ね。」

感嘆するような跳子の声に、思わず赤葦が月島に同情する。
そして二人で少し話していると、少し離れたところでその様子を伺う2つの影。

「…おい、赤葦と話してる今がチャンスじゃね?」
「そうだな。よし、行こうぜ!」

跳子に話しかけるチャンスを伺っていた梟谷の小見と木葉だ。
後輩である赤葦を出汁に話しかけようと進もうとすると、プールの水が急に冷たくなってブルリと震える。

((この身に覚えのある冷気は…!))

恐る恐る振り向くとそこには−

「…で、どこに行くんですか?」

般若の表情が見え隠れする澤村だ。

((やっぱりー!!))

退散する2人を見て、澤村の表情がフッと戻る。
そして軽いため息をついた。

(なんだかなぁ…。)

これでは清水を守ろうと周囲を威嚇する田中・西谷のことを注意できない。

(…かと言って危なっかしくて放ってはおけないし…何よりも俺がイヤだ。)

『−澤村先輩?』
「!」

考えながら頭をガシガシと掻いていると、いつの間にか跳子がすぐ側に来ていた。

『もう黒尾さんとのお話終わりました?』
「あ、あぁ。」
『…あの…っ』
「…鈴木、その…今日は俺の側から離れないでくれないか?」
『っ!じゃあ一緒に遊んでくれますか?』
「もちろんだ!」

相手が了承してくれた事に二人ともホッとして目を細めた。
こんなにも眩しいのは、太陽を背負っているせいだけじゃないと思えた。


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