長編、企画 | ナノ

渡る世間は鬼ばかり?



二人でカフェを出て歩く途中で大きなスポーツ用品店を通りがかり、澤村がふとサポーターが大分くたびれてきたのを思い出した。

「悪い。ちょっと寄ってもいいか?」
『もちろんいいですよ。』

跳子としても一緒にいれる時間が少しでも長くなるのは嬉しいので、もちろん構わなかった。
ついでに何か部活で必要な物がなかったかを考えながら店内に入る。

最近できた、ビルが丸ごとスポーツ用品店になっている大きなこの店は品揃えが豊富だった。
目的のサポーターを買った後も、初めて見る新製品の便利グッズをいじってみたり、有名人のサインを見て何て書いてあるか二人で考えたり。
くだらないことばかりだけど跳子は本当に楽しかった。

(緊張もドキドキもずっとしてる。でも、先輩といるとこんなに楽しい。)

跳子もどうせだったらこの機会に室内シューズを新調しようと、澤村と一緒に靴が置いてあるスペースへ移動し、並んで物色する。

「こうやって見ると、ほんとに小さいなぁ。」
『標準です!皆が大きすぎるんですよ!だいたい…』

「徹、これ買ってくれ!」
「ちょっ!?なんで俺のより高いの選ぶのさ!」

「『…ん?』」

レディースの棚の反対側のキッズ用の棚から、聞き覚えのある声が聞こえる。
そろりと棚の端から二人で顔を覗かせてみる。

「『…ゲッ!』」
「あっ!!」

そこには青城の及川が、小学生くらいの男の子と立っていた。

「跳子ちゃん!ちょっと主将クンと二人ってどゆこと!?それに今"ゲッ"って言わなかった!??」

((面倒なのに捕まったな…。))

澤村と跳子が頭を抱えていると、及川の隣に並んでいる男の子が大きな声をあげる。

「…徹、誰だ?」
「『…隠し子(です)か…?』」
「そんなわけないでしょ!甥っ子だよ!…猛、挨拶。」
「オス!」

元気よく挨拶する猛の目線に合わせるように跳子はしゃがみこんだ。
澤村も体を屈める。

『私は鈴木跳子って言います。よろしくね。猛くん』
「俺は澤村だ。猛くんもバレーやってるのか?」
「おう!跳子は可愛いな!澤村とつきあってるのか?!」
『えっ…!』

予想外の言葉に、跳子と澤村が固まる。
すぐさま及川が横から口を出した。

「そんなハズないよ!猛、跳子ちゃんは俺の彼女になるんだよ。」
「?でも徹、彼女にフラれたばっかなんだろ?」
「はっうぐぅ…!」
『…及川さん…適当な事言わないでください…。』

跳子の冷たい視線に及川がトドメを刺される。

「澤村が着てるの、さっきのヤツと同じだな。仲間ってやつか?」
「ん?」
『?"さっきのヤツ"って?』
「徹が、とびお?とか呼んでた。」
「!?影山に会ったのか?」
『…!』

二人がバッと及川の方を見る。
そっぽを向いていじけながら及川が答える。

「…アイツが頼むから相談受けてやっただけですー。」
「なんかダサい写真撮ってたぞ。」
「猛!ホントちょっと黙ってなさい!」
『…写真…?』
「ちょっ!変な写真じゃないよ!」

跳子のジト目に慌てて及川が携帯を取り出して二人に見せる。
写っていたのは頭を下げる影山に、ピースサインを掲げる(多分)及川。

「飛雄が俺に頭下げるなんて珍しいからねー。ブレブレだけど岩ちゃんたちに見せようと思って!」

悪そうに笑う及川と、表情が消える澤村と跳子。

『……。ピッ(削除)』

「ちょっ!跳子ちゃん何消してるの??!」
『スイマセン。テガスベリマシタ。』
「片言!?」

涙目の及川に携帯を返し、跳子はもう一度猛に話しかける。

『教えてくれてありがとう、猛くん。』
「おう!」
「バレー頑張れよ!強くなって烏野に来てくれな。」
「カラスノ?しょうがねーから行ってやる!」

笑いながら3人で手を振って、その場を離れた。

「…ちょっと!俺の存在は!?っていうかなんで二人きりなのさ!!」

喚く及川から逃げるようにそそくさと走り去る。
室内シューズはまたしばらくお預けだ。

「まぁまた来ような。ゆっくりと。」

ため息を吐いた跳子に澤村が言う。
次があるなら、ほんのちょっとだけ及川に感謝してあげてもいいかな、なんて思った。


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