長編、企画 | ナノ

戦士の休息


翌日の放課後。久しぶりの部活休みに澤村は図書室に寄っていた。

(…結局昨日は誘えなかったな…。)

参考書を手にしながらも、澤村の思考は別の事を考えていた。
かねてから今日が部活がないことはわかっていた。
前々から遠征の帰りに跳子が疲れていないようだったら、この放課後にどこかへ誘ってみようかとも考えていたのだ。
結局、昨日は跳子が急遽影山と帰ることになったため、話を出すこともなかったのだが。

(まぁ今の部活の雰囲気から、お互い楽しめる感じでもないし仕方ないな)

澤村も日向・影山のピリついた雰囲気を感じ取ってはいたが、昨夜とうとう取っ組み合いにまで発展したと田中から聞いた。
部長としてしてやれることがないのがもどかしくて情けないが、落ち込んでばかりもいられない。

(アイツらの速攻ばかりに頼るわけにもいかないしな。)

部としても強くなるために何かもう一押し必要だと思っているが、どうしたらいいものか。
部活は休みだが鳥養なら坂ノ下商店にいるはずだ。
少し相談してみようと、結局問題集に手をつけないまま澤村は席を立った。


その頃跳子は、ちょうど坂ノ下商店を訪ねていた。

『…鳥養コーチ。すいませんお仕事中に。』
「鈴木。まぁ別に忙しかねぇし構わねぇけどよ。…あの二人の事か?」
『ハイ…。』

そして跳子は昨日の夜の事を話す。
鳥養が煙草の煙と共に、ため息を吐き出した。

「あ、悪いな。煙草。」
『いえ、大丈夫です。』

「そうか」と言いながらもまだ長い煙草の火を消す鳥養の優しさに、話題の内容のせいで険しかった跳子の顔が少し緩んだ。
跳子がお礼を言うと、照れた顔を隠すようにぶっきらぼうに烏養が返事をする。

「それにしてもどうしたもんかな。元々見た事もねぇ技だってのになぁ。」
『?え?でも速攻は速攻ですよね?』
「いやでもあんなの普通じゃねーしな。」
『…確かに普通ではないですが、やっていることは速攻ですよね。』

鳥養が跳子との会話が少しかみ合っていないように感じた時、再度店の引き戸が開かれた。
客かと思って慌ててそちらを向けば、様子を気にするように入ってきたのは澤村だった。

「鳥養さん、すいませ…、あれ?鈴木!?」
『澤村先輩!』
「さすがというかなんというか…。今鈴木と変人コンビの話をしてたところだ。」

一つ頷いて、澤村も鞄を下しながらイスに座った。
今度は3人で色々と話し合う。

『…私ちょっと思ったんですけど。あの速攻について、みんな技術的負担から影山くんが絶対的支配者だと思いがちですが、通常の速攻と同じく攻撃のキーを握るのはスパイカー…つまり日向くんの方じゃないでしょうか?』
「でも影山が完璧に日向に合わせて打たせてるんだからやっぱ普通とは違うんじゃないか?」
『ん〜それはそうなんですけど…。』
「確かに日向のスピードがないとできないっていう点はあるが…。」

跳子もなんと言葉にしていいか、まとまらなくなってくる。
鳥養としても何となく跳子の言葉は引っ掛かるが、明確に答えることができない。
結局また全員でうなり始める結果となる。

(というか普段から問題児を支えるこの二人に、ゆっくりと休みを取らせるべきじゃねーか?)

ふと、鳥養が思う。
昨日まで東京遠征で、そのまま休みなく学校で授業を受けた後だ。
疲れていないわけがないし、これ以上頭を悩まさせたくはない。

「…まぁアイツらの事でお前たちがそんなに悩んでもしょうがねぇだろ。二人の事は俺に任せろ。」

二人が驚いたように顔をあげる。
跳子が「でも」と言いかけたところに鳥養がすかさず言葉を投げた。

「とりあえず、お前らも今日は"休息"だ。あんまり考え込まずどっか行って来い!」
「えっ!?」
『どっかって言われても…。』
「いいから行け行け!デートでも何でもしてリラックスしてきやがれ!」
「『!!』」

(デートッ?!)
(リラックス…?なんて余計できない!!)

まごついてる間に鳥養に店から追いやられ、二人は少しの間立ち尽くす。
澤村が気まずそうに頬を掻いていたが、やがて口を開いた。

「…あー、んじゃまぁ鈴木がよければ、どっか行くか。」
『あ、はっハイ!』

二人で一緒に帰る時とは少し違う雰囲気を感じた。
鳥養に心の中で感謝しつつ、二人は店の前から駅の方に歩き始めた。


店番に戻った鳥養は煙草に火をつけ、チラリとカレンダーを確認する。時間もない。
再び考えはじめた鳥養の耳に、カラカラと引き戸が開く音がした。

「いらっしぇー…って、日向か。」

そこには顔に絆創膏を貼った日向が立っていた。

(次から次へとまぁ…。といっても張本人は居てもたってもいられんだろうから仕方ねぇか。)

「…コーチ。おれは、どう練習すればいいですか?」
「俺も今それを考えてたが、正直全くわかんねぇ。」

そんな鳥養の脳裏に浮かんだのは、自分とそっくりのいけ好かない顔の事だ。

「…お前ちょっと待っとけ。もうすぐ店番終わるから。」
「?」


そして二人で向かった先は、庭に張られたネットで子供たちがバレーをする純日本家屋風の家だ。
そこで子供たちにバレーを教えていたのは、かつて烏野を全国に導いた名将・鳥養(元)監督その人だった。


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