長編、企画 | ナノ

衝突



その夜、日向がトイレに行くとリエーフとバッタリ遭遇する。

「烏野の10番…」
「!!!」

今日は二人は対戦していない。
それでも戦いぶりを見て、互いを認識していた。
人見知りもせずに素直に話すことができる二人が、仲良くなる毎に掻き立てられるのはそのお互いの闘争心だ。

「一番沢山点をもぎ獲った奴がエースだろ。」

リエーフの言葉が日向の意識に残る。

−自分の手で、点を−


翌7月8日。遠征2日目。

「烏野はGWの時より落ち着いて見えますね!」
『!ありがとうございます!』
「ん〜そうね〜。全体的に安定感が出てきたね〜。」
『…安定感、ですか。』

猫又監督の言葉が跳子の心に引っ掛かる。
"安定"−褒められているのだろうが、違和感が残る。
特に言われている対象の日向には似合わない。

(似合わない、というよりも、今は必要なのはそれじゃない気がする。)

「研磨、カバー!レフトレフト!」
「俺に寄越せェェエ!!」
「!?」
『!!っブロード!?』

研磨が慌てて走るリエーフに合わせてトスをあげ、リエーフがそれを決める。

「タメ口すんません。調子こきました。」
「そういうのいいっていつも言ってんじゃん。それより移動攻撃なんて突然言われても困る。」
「でも…できたじゃないスか」

ぶっつけの移動攻撃。生まれ持った力を見せつけられるようだ。
隣のコートから、タイムアウト中に見ていた日向に衝撃が走る。
そして頭のなかで繰り返されるリエーフの言葉。

「センター…エース…」

猫又が烏野をチラリと見る。

(強くなるためにここに来たのだろう?)

強さを手に入れる為に求めるのは、安定か−それとも、進化か。


音駒vs烏野。
昨日から数えて3セット目の戦いだが、日向・影山が来てからは初めてとなる。
現在の戦績は、音駒の2勝だ。

跳子は烏野のベンチから双方の戦いを見る。

(確かにお互いよく知っている相手。警戒すべき点もよくわかってる。…でもそんな戦いはこれからどんどん増えていく。)

そう。これから先、ずっと変人速攻を知らない相手とばかり戦うわけではない。

(やっぱり先に進まないと、いけない。)


序盤から日向が捕まったことで、烏野が早々にタイムアウトを取る。

「まぁ落ち着け。最初から速攻はガッチリ警戒されてんだから無理もねぇ」

そして鳥養は東峰・田中のレフト中心の攻撃を指示する。が、心中で自問自答を繰り返す。

(それでいいのか俺?弱腰じゃねぇのか?)
(…護りに入って進化はあるのか?繋心よ)

速攻を止められ、作戦を黙って聞いていた日向の血が人知れず滾る。
高鳴る心臓の鼓動を掴むように握り締め、ユニフォームに皺が寄る。

(ヤバイ、なんだ、コレ。強えーな…。もっと強くなんなきゃ全然勝てない。)

点をもぎ獲り、エースの座をもぎ獲れ。
自分の手で。自分の力で。


「!スマンちょい短い!」
「旭!」「ラスト!」「旭さん!」
「レフトレフト!」

影山が弾いたボールを澤村があげる。
敵も味方も、誰もがボールを打つと東峰に集中する。

「!えっ」
『…!!』
「!?」

跳んだ東峰に悪寒が走る。
日向が、子供のように笑顔でボールだけを見ながら、自分と同じ場所を目がけて跳んでいた。
そして−空中で衝突する。

『日向くん!』
「うわあああ!だだだちょちょちょ」
「すっすみませんん!!つい球だけ見てて…!」

焦る東峰に土下座状態の日向。
とりあえず怪我もなさそうで皆ホッとする。

「ちゃんと周り見ろボゲェー!!」
「ハイ…」

しおらしくなった日向に鳥養の檄が飛ぶ。

(怪我がなかったのはよかったが…)

そこにいる全員が感じたある事実に、烏野が緊張感に包まれる。

(無意識に今、エースへのトスを奪おうとしたように見えた)


「…なぁ影山。」
「あ?」

「おれ、目ぇ瞑んのやめる」


雛烏に進化の時。
勝利を、力を、変化を求めるのなら、その"欲"が、雛に進化を齎す−

(それがチームにとって吉か凶か−)

その答えは、誰もまだわからない。


「今のままじゃだめだ」
「「!!」」
「俺が打たせてもらう速攻じゃダメだ。」
「…お前が何考えてんのか知らねぇけど話なら後で聞いてやる。」

そしてもう一つの衝突も、すでに避けられない状態にあった。


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