長編、企画 | ナノ

【番外】澤村主将と牛島主将



テスト期間中は部活動は原則禁止だ。
無事にテスト初日を終え、澤村は久しぶりに一人で帰ろうとしていた。

(なんか…変な感じだな。)

ここのところ帰り道には自分の隣に跳子がいるのが普通になっていた。
空いている左側がなんとなく寂しいように感じる。

(…片想いのくせに、贅沢な悩みだ。)

そんな自分に少し苦笑いを浮かべて、足取りはいつものように校門へ向かう。
しかし通りすぎる生徒達が、なんだかざわついているようだ。

(??)

澤村も気になって、通りすがりに皆の視線を追ってみる。
その先には、予想外の人物が立っていた。

「牛島!?」
「む。来たか、澤村。」

直立不動で立っていた男が、自分の元に歩み寄ってくる。
澤村は、皆の視線が自分にも刺さるのを感じて少し居心地が悪いとそわそわした。

「…鈴木なら今日は見ての通り一緒じゃないぞ。」
「今日は跳子に用があるわけではない。」
「??」
「…お前と話をするために来た。うちもテスト期間で部活がないからな。」

どうやってうちのテスト期間を知ったのかは知らないが、だいたいどこも同じくらいか。
それならどこか場所を移そうと、二人で歩き出した。
会話らしい会話なんてない。

(…居心地悪っっ)

元々仲良いどころか友達ですらない。
跳子繋がりの顔見知り、とでも言うのか。

(男同士で公園っていうのもなぁ…。かと言って店に入るのも…。一応聞くか。)

「…どっか入るか?」
「そんなに長い話ではない。ただ確認しにきただけだ。」
「確認?」
「澤村。お前は跳子の事をどう思っている?」
「!…いきなり直球だな、牛島…。」
「?そうか?それ以外に聞き方がわからん。」

澤村の問いかけをきっかけに、結局立ち話のまま本題に入る。
こういう話が得意なわけではないが、ごまかすわけにもいかない。

「…好きだと思ってるよ。」
「…やはりそうか。」
「お前もそうなんだろう?牛島。」
「当たり前だ。幼少の頃から、ずっと大切に思っている。」

"幼少の頃から"−
その言葉に澤村は少し胸の痛みを感じた。
確かに自分には入れない程の長い時間が二人にはあるのは知っている。

「…それはわかってるよ。それでも俺は、お前が彼女を傷付けた事実は許せない。」
「…。」
「それがなければ、俺が鈴木と出会えなかったかもしれないのはわかっている。だとしても、だ。」

牛島が黙り込む。
確かに当時は仕方なかった事も多かったのだろう。
それでも澤村には、牛島の言葉や行動一つで跳子があそこまで追い詰められることはなかったように思えてしまう。

「…そうだな。それは自分でも許せる事ではない。だから跳子は俺から離れた。」
「…。」
「それでも譲れないと思っているのだ。」

真剣な牛島の目が、澤村を見る。
本気だということが伝わってくる。

「ずっと守ってきた。それでも跳子が中学を卒業するまでは男女交際は早いと思い、アイツにたかる男どもを追い払いつつ高校に進学したらとずっと考えていたんだ。結局白鳥沢に来なかったからと言って、諦められるわけがないだろう。」
「…。」

その長年の我慢を思うと、澤村は男として少し同情する部分はあった。

「要はお前に負けるつもりはないということを言いに来たのだ。」
「まぁそうだろうな。それは俺も同じだ。全国も彼女も譲る気はない。」

お互いきっと諦めないというのは、牛島も解っていたのだろう。
フッと少し笑い合って話は終わった。
牛島がその場を立ち去ろうと数歩進んだ時、ふと思い立ったように振り返った。

「そういえばお前の学校には女子バレーボール部はないのか?」
「?あるぞ?活動している場所は違うけどな。」
「そうか…道理で…。」

澤村には牛島の質問の意図がわからず、牛島の言葉の続きを待つ。

「跳子から聞いた話では、随分と平穏無事な高校生活のようだったからな」
「??」
「中学の時のように女子バレー部に追い回されることがなくて安心した。」
「どういう意味だ?」

澤村の言葉に、今度は牛島が意外そうな顔をする。

「知らないのか?跳子は女で唯一、俺のスパイクをレシーブできる女だ。」
「はぁ!?」
「といっても中学生の時までだが。小さいころから受け続けていたから慣れたんだろう。
そんな跳子を女子バレー部が放っておくわけがないからな。中学時代には男どもだけでなく、そこから守るのも一苦労だった。」

ポカンと口を開けてしまう澤村を見て、牛島が勝ち誇ったような顔をして去っていった。
その背中を見て苦笑いを浮かべる。

「…んにゃろー…」

まだまだ知らない事がたくさんある。
これから知っていく事がたくさんある。

跳子の側にいる為にはまた一つ気合いを入れて臨まないといけない。
澤村は大きく息を吸い込んで、小さくなった背中に拳を送った。


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(オマケ)

次の部活時

「鈴木…俺に黙っていることがあるだろう?」
『ひぃぃ!何ですかぁぁ?!』

久しぶりの(黒)笑顔とのご対面。


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