長編、企画 | ナノ

テスト革命



テスト直前の土曜日。
部活を終えた日向と影山は、谷地の家でテスト勉強を教わっていた。


「谷地さん、土曜なのにアリガトな!これでテストばっちりだよ。たぶん!!」
「あざす。」

(多分か…)

少々不安は残るものの、やるだけのことはやった。

「…なぁこの辺て、白鳥沢の近くだよな。」
「あっうん。確かうちから2駅くらい先にあったと思うよ。白鳥沢。」
「白鳥沢って"ウシワカ"の!?」
「俺に何か用か?」

予想外の答えが後ろから聞こえてきて、日向と影山がぎこちなく振り向く。
まさかの声の主は、絶対王者・白鳥沢の牛島若利本人だった。

「ジャパン!!」

(でかーっ!これがゼッタイオージャ…!)

日向と谷地が衝撃を受ける。

通りすがりに自分の名前が聞こえたために反応したが、どうやら用事があるわけではないようだと牛島は判断し、その場を立ち去ろうとする。
そこへ影山がチャンスを逃すまいと声をかけた。

「俺達、烏野から来ました。白鳥沢の偵察させてもらえませんか?」
「烏野…。」

その学校名に思わず振り向く。
跳子の、そして澤村の学校だ。

「おかしな速攻を使うチームだな。」
「「!」」
「−好きにしろ。お前たちの実力がどうであっても、見られることで俺たちが弱くなることはない。」

そして牛島の挑発的な言葉に日向と影山が乗り、白鳥沢までついていく事になった。
谷地が涙で見送る中、3人がハイスピードで駆けていく。

(余裕でついてくる…しかも喋りながら…。)

牛島は後ろをちらりと見やる。
烏野。跳子のチームメイトか−。


−"見られることで俺たちが弱くなることはない"−

そう言った時、牛島はふと昔のことを思い出した。
あれは中等部の…3年の春だったか。
校内にカメラを持って偵察にきた他校の者を見つけた時にも、確か同じセリフを言った事があった。
そして"見ても無駄だ"と続けたような覚えがある。

その帰り道、牛島は跳子にたしなめるように言われたのだ。

「見られることで弱くなることはなくても、見ることで強くなることはできるんだよ。」

技を盗む。癖を見抜く。パターンを読む。

「若くんは強い相手を求めてる。だから見られることを気にしない。それはわかってる。
それでも見ることを否定しないで。それは私がしていることを否定することになるんだよ。」

(珍しく、跳子が俺に少し怒っていた。)

跳子もそれだけバレーが好きで、自分のしていることに誇りを持っていたということだ。

(否定はしない。強くなればいい。俺は強くなったお前たちのさらに上をいき、お前たちを倒すまでだ。
そして跳子、−お前を取り戻す。)


白鳥沢学園につくと、あまりの広さに日向が舞い上がる。

「うおっお〜!広ォ〜ッ」

色々なものがあってキョロキョロと目移りしている間に、牛島を見失った。
つまり、迷子だ。
それでも二人は野生の勘と、大好きなバレーの音でそれっぽい建物を見つけて覗く。
中にいたのは…大学生のようだった。

「白鳥沢は…県外に行くか大学生相手にしか練習になんねぇんだろうな。」
「…ジャパンめ…」
「…遅かったな。」
「「!」」

その背後を走り終えて体育館に戻ってきた牛島が通る。
影山が改めて確認する。

「俺は烏野高校の影山です。偵察してもいいですか?」
「カゲヤマ…北川第一か。」
「!ハイ。ココ受けて落ちました。」

牛島は、コート上の王様の噂は知っていた。
中学の試合を観たこともある。実力があったとしても−

「俺に尽くせないセッターは、白鳥沢にはいらない。」

それを聞いた日向が噴出す。

「確かにお前、"尽くす"って感じじゃねーな。」
「あ!?」
「でもそれだと"大王様"もだよな。県内最強セッターなのにな。」
「及川さんは今関係無ぇだろ!」
「……。」

二人の会話に、言った牛島が少し疎外されるような形になってしまった。

「…及川…。奴は優秀な選手だ。ウチへ来るべきだった。」
「!」
「…及川さんならエースに尽くすってことですか??」
「及川はどこであろうとそのチームの最大値を引き出すセッターだ。」
「…」

日向は今度は黙って聞いていた。

"チームの最大値が低ければそれまで"−?

「優秀な苗にはそれに見合った土壌があるべきだ。痩せた土地で立派な実は実らない。」
「…ヤセた土地?どういう意味ですか??」
「?青葉城西は、及川以外弱い、という意味だ。」
「…弱い…」

自分たちが戦った相手。
岩泉や金田一、6人の青葉城西というチームは強かった。
だから、負けた。

「−青城が"ヤセた土地"なら、おれ達はコンクリートか何かですかね??」

チリつく空気。
牛島は、日向の威圧感から怒りを感じた。

「何か気に障ったのなら謝るが…県内の決勝にも残れない者が何を言っても、どうとも思えん。」

その時体育館から大きな音がした。
高く跳ね上がって外に出そうなボール。

「すまん取ってくれー!」

牛島はそれを取ろうとジャンプするが−

「!!」

自分の後ろにいたはずの、遥かに小さい日向にそれを先に取られる。
信じられない思いで牛島は日向を見る。

「…コンクリート出身。日向翔陽です。」

そして日向は手にしたボールを牛島に渡す。

「あなたをブッ倒して全国へ行きます。」

失礼します、と丁寧にお辞儀をして日向が立ち去る。
その背中を見ている牛島に、今度は影山が声をかける。

「及川さんが県内で最強のセッターなら、それを超えるの俺なんで。」

それは二人からの、正真正銘の宣戦布告。

「−スタミナ・スピード・瞬発力・バネ・闘争心…」

そして覚えた二人の名前。

(面白い仲間がいるな、跳子。)

立ち去る二人の後ろに、跳子と澤村の姿が見えた気がした。
好敵手を求める獰猛な白鳥が、不敵に笑った。

そして一つ確認するために、牛島は二人を呼び止める。

「ちょっと待て。」
「「??」」

「お前たちの学校のテストはいつからいつまでだ?」


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