●●●誰しも完璧ではないんです
谷地はPCに向かっていた。
先日、日向と影山に頼んでスパイクを打つ姿を写真に撮らせてもらった。
その画像を取り込む。
武田先生にも確認し、ポスターを作ることは了承をもらっている。
清水や跳子にも話していくつか案も見てもらった結果、絵のポスターではなく、より躍動感の出る写真を使うことにした。
部活には参加しているが、まだ谷地は正式に入部はしていない。
もう迷っているわけではなかったが、自分に自信を持ちたかった。
(これを作り上げることが出来たら、バレー部に入れてもらおう。)
谷地はそう意気込んでみるも、目の前の画面にはいまいち納得ができない。
文字の配置を色々と変えてみるがどうもしっくりとこなかった。
「あんたそんなの全然ダメじゃん。」
「お母さん!」
−何を見せたいの?
−どういう人に見て欲しいの?
−どうすれば通りすがりの人が立ち止まって見ると思うの?
母親の助言を一つ一つ飲み込む。
それに答えを出していけば、なんとなく納得できる形になっていった。
目を引くだけの奇抜なものでは、言いたい事が伝わらない。
言いたい事がぎっしり詰まっていても、見てもらえなければ意味がない。
一言ポスターと言っても、作る側になれば簡単な物ではなかった。
数日後。
部活帰りに電器屋の前を通り過ぎようとする日向の視界の端に、何かが貼ってあるのが見えた。
思わず自転車を止めて仰ぎ見る。
−"小さな巨人"、再来。−
−烏、再び全国の空へ。−
そこにあるのは紛れもない自分の姿だったが、あの日見た小さな巨人の姿も重なる。
東京オレンジコートで空を跳ぶ、黒いユニフォーム。
夢にまで見た姿。
「すっげぇ…」
日向はゾクリとした。
ポスターの成果は上々だった。
武田の元には寄付金の問い合わせと共に、たくさんの応援の声も届いた。
その嬉しい結果と共に、烏野は谷地という新しいマネージャーを手に入れることになった。
「う〜暑い…」
「ちょっとの間だけだから!」
「ホレ月島も!こっちゃ来!並べ!」
もう暦の上では夏だ。当然長袖のジャージは暑い。
それでも皆、歓迎の意を表すために黒い御揃いのジャージに袖を通す。
「えー今日から谷地さんがマネージャーとして正式入部ということで−」
「ハイ」
清水から手渡されたのは、皆と同じ黒ジャージ。
背中に書かれた堂々とした文字。
「せーのっ」
「「ようこそ!!烏野高校排球部へ!!」」
東京遠征まで、あと少し。
つまり期末テストまでも、あと少し。
『それにしても…本当にスゴイよね…。』
部室でみんなで見ているのは、谷地が作ったポスターだった。
「あの日体育館で用事があるって、この写真撮ってたのかー。」
「東京オレンジコートに、日向にだけ先行かれちまった気分だなぁ。」
「翔陽、すげーじゃん!」
「…日向がかっこよく見えるとか詐欺だよね。」
「詐欺って何だよ、オイ!」
ボソリと言った月島に日向が噛みつく。
『仁花ちゃんにいくつか原案見せてもらいましたけど、絵のやつも全部すごい上手かったんですよ!』
「いっそ今年の部活勧誘のチラシも描き直してもらうか。」
「…あれ、すごい絵ですよね。誰が描いたんですか?」
「…。」
月島の質問に誰も答えることなく、澤村が一言「聞くな」と言った。
「…まっ、まぁ来年は部活勧誘のポスターもチラシも、谷地さんに描いてもらえるな!」
『…いいなぁ。』
慌ててフォローする菅原に、跳子の羨む声が聞こえた。
「?鈴木が描きたいのか?別にもちろんそれでも−」
『いやっそうじゃなくて…!!』
「「??」」
澤村の言葉に慌てる跳子に注目が集まる。
その視線に恥ずかしそうに下を向いて、跳子がボソッと答えた。
『私、絵、あまり得意じゃなくて…』
(鈴木にも苦手な事があったのか…!)
皆心の中で驚く。
そして少しの沈黙の後、おもむろに菅原が大きな声をあげる。
「…烏野、絵心クイズ〜!」
「「イエーィ!!」」
『!!?ええっ!?』
そんなことを聞くと見てみたくなるのは人間の性なのか。
まぁなんだかんだそうはいっても、上手じゃないまでも普通だったりするものだ。
「はい、これノートとペンね〜。」
『え?あの??』
「誰かお題出せ〜!」
『いや、だから、』
「大丈夫大丈夫、みんなで描くから!俺らだって得意でもないしね〜。」
−数分後、跳子の描いた絵に絶句する面々がそこには居た。
「同じ、お題だったよな…。」
「なんか、呪われそう…。」
「…あー、鈴木。すまん。」
『〜〜だから言ったのに〜!!』
そんな裏設定の回収。
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