長編、企画 | ナノ

烏の進化


『じゃあ私、行きますね。』

青葉城西に勝てば、次の相手はHブロックである新井川vs泉石の勝者だ。

−皆さんのことを信じています−

それだけ言うと、跳子はその試合会場に走っていく。
全員気合いは十分だった。
ついでに言えば−

"キャー!!及川さ〜ん!"
"頑張って〜!!!"

「負けてたまるか!行ぐぜぇぇ!!」

一部には余計な油も注がれている。


「烏野ファイ!!」
「「オース!!」」

「それじゃあ今日も−信じてるよ、お前ら。…行くぞ」
「「オオス!!」」



新井川vs泉石戦はどちらもシード校なだけあり、一進一退を続けたが結果は泉石が準々決勝進出となった。

(やっぱりここもサーブは要注意。…でも青城ほどじゃない。連携は多彩だけど、総合攻撃力ならうちの方が高いはず。)

ザックリと情報をまとめて一息つき、跳子は目の前の試合への集中力を解く。

(…そうだ試合!)

途端に対青城戦のことを思い出し、ガバッと顔をあげそちらのコートを見る。

(第2セット、烏野23対青城…22!接り勝ってる!)

早く近くに行きたいと思いつつも目が離せないでいると、ついに烏野に24点目が入った。

(セットポイント!それに今、影山くんが月島くんにあげた−?)

普段のお互いの性格上、あまり多くない連携だった。
それに笑顔ではなくてもコミュニケーションをとっているように見える。

しかしすぐに岩泉に1点返され、ここにきて及川のサーブとなる。

(!?サーブレシーブ2人体制?!鳥養コーチ大胆なことを…。澤村先輩!西谷先輩!)

及川の打ったサーブが、すごい速さでサイドラインに向かっていく−

『西谷先輩ッ!!!』
「西谷ァァァァァ!!」

西谷が飛びついてそれを弾く、が直接相手側に返っていく。
2セット目を落とすかどうかの瀬戸際のサーブがコレかよ−
捕った西谷が寒気を覚える。

(なんつーサーブだ、すげぇコイツ−)

キレイにセッターに返るボール、じゃあセンターからの速攻が…

(影山くん!?)

跳子の目に一瞬、センターをブロックしようとする月島のユニフォームをつかんで止める影山の姿が目に入った。
そして−

ピピーッ

「「うおっしゃあああぁ!!」」

レフトの岩泉のスパイクを2人がブロックし、第2セットを烏野が獲り返した。

(すごい…!)

確かに通常の決定率が高いのはセンターからの攻撃だった。
でも、状況や心情・関係性を考えてみれば、及川が岩泉にあげることも今となってはわかる。
スゴイのは何よりも、"それに影山が気付いたこと"だ。

跳子は急いで烏野の観覧席へ向かった。
何かが起きている。自分の想像を超える何かが。
跳子の鼓動が、どんどんと早まっていった。



最終セット。

白鳥沢の頃には、強豪と呼ばれる自分の学校が3セット目までもつれこむことがあまりなかったため、こんな風に見る機会がなかった。
跳子は目の前で行われる生き残りを賭けた闘いを、ただひたすら目に焼き付けていた。

ラリーが続く。息苦しいほどに。
感情が追いつかない。

でもみんな、落ち着いてる−

東峰が打ったボールを及川がレシーブした。
セッターがトスをあげられない。つまり烏野のブロックチャンス−

「渡っち!!」
「ハイ!!」

今の青城のリベロ、アタックラインぎりぎりで飛んだ−!?

(あんなの突然やってみてできるものじゃない。及川さんも彼を呼んだ。つまり−)

『フロントゾーンでトスが可能な、リベロ…?!』


「青城のリベロ…元々セッターだったかもしれない。−トスの技術が並じゃない…」

烏野ベンチでも鳥養がつぶやく。


思いもしなかったことに、跳子の肩がぶるっと震える。

(そんなのもあり、なんだ。全然わかんなかった…!バレー、やっぱ面白い!)


ピーッ

青城 11-8 烏野

3セット目になって初めて3点差になった時、烏野はタイムアウトをとった。

「よし、ちゃんと戦えてるぞ!」

戻ってきた選手に鳥養が声をかける。

「攻撃はできるだけコートの横幅めいっぱい使ってけ!」
「「「ハイ!」」」

それぞれの持つ力は如何なく発揮されている。
それでも青城との均衡は崩れない。
むしろ、経験と地力の差がじわじわと見えてくる。

でも−

「ナイス月島!"忘れた頃にやってくるいやらしフェイント"!」
「呼び方…」
「オラオラもっとしゃべれーっ!」
「アゲてけーっ!」

(うん、みんな元気だ。)

『いいぞいいぞー!いやらしフェイントー!!』
「!!鈴木…!そうか来れたのか」
「鈴木まで言う…」

跳子の声に、いつも通りのしかめ面と、いつも通りの笑顔を取り戻す選手たち。
そして跳子は、ウォームアップゾーンでじりじりと出番を待つ日向を見つめる。

(最強の囮…!後はお願い…っ!)

「日向。」
「?スガさん。」
「鳥養さんがさっき言ったこと思えてるか?」
「"コート幅めいっぱいの攻撃"…ですか?」
「そう。それに最適な攻撃、今回はまだほとんど使ってないハズだ」
「!」

日向が、最強の囮がコートに飛び出していく。
菅原がその背中を見る。

(日向・影山。烏野に青城を踏み抜く"あと一歩"をくれ!)


及川は、何かを感じていた。
自分のチームはリードも安定もしている。心配することなど何もない。
それでもギラギラとした日向・影山を目の前にすると、どこか寒気を感じるのだ。

「影山、ナイスワンタッチ!」
「チャンスボール!!」

−コートの横幅、−

「…めいっぱい」

そして最強の囮が動く。一気に端から端に。

「!!!」

あの空間を裂くような、ワイド移動攻撃−

ガンッ

身動きがとれないまま、ボールが青城のコートに吸い込まれた。

会場が静まり返る。
審判が慌てて得点を知らせる笛を吹いた。

「−なっ」
「ナイスキー日向ァァァァァ」
『〜〜〜っ!!』

菅原の、烏野ベンチの声で、場内がどよめきを取り戻す。
跳子は信じられないものを見たような気がしていた。

(−…いけない)

及川にとって、もはや日向は"小さくて下手っぴなチビちゃん"ではなかった。
れっきとした"脅威"だ。

(−チビちゃんを1秒でも早く後衛に回せ!)

「10番また走ってる!3連続でブロード!?」

今自分にできること。ここに居る意味。
足を止めるな。ジャンプを止めるな。
サボることなんて知らない。
"走れ" "飛べ" "ここに居たい"
日向にはただそれだけだった。

「持って来オォオい!!!」
「っフリーで打たせてったまるかっ!!」
『行けぇぇ!!小さな巨人!!』

日向が飛ぶ、頂上、ブロックが2枚、影山がボールを−

(−の、後の 中央突破だ!)

東峰に、あげた。
キレイにあがったボールを東峰が決める。

「!!パイプ貫通っ!!」
「ナァイスキィー!」

『…今、完全に−』
「日向が打つと思っちゃったよ…」

騙されたのは、相手のブロックだけじゃなかった。
セッターである菅原、そして跳子も日向が打つと思った。
そして、トスをあげた影山自身も、信じられない思いで思わず日向を見る。

(今、日向にあげそうになった。トスを…持って行かれるところだった。
−"最強の…囮"…!)

青城 15-15 烏野

烏野が追いついた。
今度は青城のタイムアウトの笛が鳴り響いた。


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