●●●似た者同士(side 菅原)
「ふわぁ〜あ〜…」
朝練に向かう道すがら、のびをしたついでに自然と大きなあくびがこぼれる。
(朝練は始まっちゃえばいいけど、やっぱ起きるのは大変だよなぁ。)
俺はあくびで浮かんだ涙をぬぐいながら、まだ動きが鈍い頭で軽く愚痴ってみる。
しかしすぐに、それでも暖かくなってきただけマシだな、と思い直した。
宮城の5月の朝はまだ少し肌寒さが残っているものの、真冬の朝に布団の温もりを手放さなければならないあの日々に比べれば全然いい。
学校の手前で、前を歩く大地を見つけた。
声をかけようと少し足を早めて近づいたが、なんだか大地の様子がおかしい。
それに気づいた俺はあげかけた手をとめ、さらに近くから様子を伺ってみた。
頭をかかえて唸ってるかと思えば、急に赤くなったり。
また少しすると難しい顔をして腕を組みだし、ブツブツつぶやいている。
何してんだ?と思いつつ、俺はわきあがるいたずら心を抑えられない。というか、むしろ抑える気はない。
俺に気づく様子がない大地に、背後からそっと忍び寄る。
「…わっ!!!」
「うわぁ!すまん!!、」
「あっはっは!大地、すまんってなんだよ。誰に謝ってんの?」
「スガ…!いや、別に…!」
(…怪しい。)
なぜか謝罪した上に、目に見えてダラダラと汗をかく大地。
これは何かがあったな…?
校内に入ったところで、さらに前方に跳子ちゃんを発見した。
心なしか首をかしげて、何か考えながら歩いてるように見える。
俺的に、大地の焦る要因として今最も考えうるのがこの子だ。
「おーい!跳子ちゃーん!」
『あっ菅原先輩。おはようございま…すっ?!』
「…?」
俺の声に気づいた跳子ちゃんが振り向いた時、明らかに俺の隣にいる大地に気づいて動揺したよな??
これはクロか…?
『あお、おはよござます、澤村せんぱひ!』
「おぉおおはよう。鈴木!」
『昨日はありありがとうございますた。』
「いやいやいやいや。」
…いや、もはやこれは真っクロだわ。
名探偵じゃなくても犯人指摘できるレベルだわ。
「…お前ら、なんかあったの?」
「ななな何もないぞ!」
『そっそそそーですぜ。すがしぇんぱい!』
コ レ ハ ヒ ド イ 。
ワタワタと揃って挙動不審になる二人。
噛み方からして跳子ちゃんの方が症状が重そうだ。
「…ふーん、ならいいけど。」
(ホッ)(うまくごまかせた)
…とか思ってそうだけど、全然そんなことないから。
明らかに安堵する二人を見て、俺はもはや将来が心配になる。
(こんなわかりやすくて大丈夫か…?)
そんな俺の気持ちも知らず、これ以上突っ込まれないようにか、さぁ行くぞ!と二人は進み始めた。
でも顔は赤いわ目は合わさないわ足元はふわふわしてるわ…。
その背中についていきながらふと思う。
なんか似てるとこあるな、この二人…
そしてその日の昼休み。
「だーいち。メシ食うべー!」
「…なんかその笑顔のお前と一緒に食いたくないな。」
「いーからいーからー。今日は別の場所にすっか!屋上?」
いつもは教室で食べるのがほとんどだ。
しかし今日は人の多い教室では、個人的に不都合が生じる。
「どこでもいいよ…旭は?」
「今日はクラスのヤツらと学食だってさ!だからサシで話するべー。」
観念したようにため息をついた大地がしぶしぶ俺についてきた。
「やっぱメインはそっちか…。」
後ろでつぶやいた大地に、俺は鼻唄を歌って気づかないフリをしながら、当たり前だろと心で返した。
「…んで、何があった?」
俺はモグモグと咀嚼しながら言ってみる。
まだ無言の大地を横目に、口にある唐揚げを米と一緒にゴクンと飲み込んで、ごちそうさまと一人手を合わせ弁当箱をしまった。
すでに弁当を食べ終えてお茶を飲んでいる大地と、腰を据えてガッツリと向き合う。
「…特になにもないよ。ちょっと昨日話を聞いただけだ。」
「ふーん、お悩み相談的な?」
「まぁな。といっても大した答えは出してやれなかったけどな。」
そつなく返してくる大地に、俺は少し不満げな顔をしてやった。
ちぇっ。
ちょっと落ち着きをとりもどしちゃったか。
でもなー大地。
それだけであんなに動揺するってこたねぇべ。
俺は大地を落とすべく、脳みそフル回転で推理を働かせる。
とりあえず、昨日の帰りまでは普通だった。
そして大地が言うことが全てが嘘とは考えにくい。
さらに朝驚かした時に、大地は思わず謝罪をした。
つまり、だ。
帰り道以降に跳子ちゃんの話を聞き、お互いに動揺するようなことを大地がやらかした、ということだ。
ここから導き出される答えとは…!
「…ふーん。で、慰めついでにギュッてしちゃったり?」
「!!!」
ビンゴ。
「…そんでもってチュっとかしちゃったり?!」
「そんなことするか!!」
「あー、じゃあギュッの方はしたのかー。」
「…!スガ、お前なんか怖いぞ!」
さっきまでと同一人物とは思えないくらい慌て出した大地の耳が、尋常じゃなく赤い。
(おもしれっ。)
いつもは部長としてシッカリした姿を見せてるのに、恋愛ごとになるとこんな風になるのかー。
大地のそんな姿見たことなかったからな。
得した気分。
「まぁでもそんなに気にすることないんじゃないか?慰めるためにしたことだろ?」
しばらくジトっとした目で見ていた大地だったが、ようやく諦めたように話はじめた。
「…本当にそれだけだったのか、自分でもよくわからん。」
「何、まさか大地。そのまま流れでさらに先に進む気だったのか?それはさすがに俺もおこるぞ。」
「だからそんなわけないだろ!」
わかってるって、と笑う俺に、大地は困った顔をする。
「…そういうつもりでしたわけじゃないが、まぁ好きだって思ってしたことだから、慰めるためだけだったのか微妙ってことだ。」
今度はハッキリした言葉に、逆にこちらが照れてしまった。
「ずいぶん潔く認めたな。」
「認めざるを得ないだろう?もうずいぶん余裕だってないさ。もうこうなったらとことん行くわ。」
なんかふっきれたような大地を見て、俺も笑う。
なんか少し羨ましくもなる。
「頑張れよ、大地。」
俺の激励に大地が爽やかに笑っ…、
あれ?爽やか…に…?
「…それにしてもスガ、お前さんざんおもちゃにしてくれたな。…覚えとけよ。」
…やべっ。
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