長編、企画 | ナノ

及川徹に嘘をつく


※年齢操作があります。大学生設定です。


開いた紙に堂々と書き込まれていた、シャレにならない罰ゲーム内容に、私はつい頭を抱えこんだ。

『あり得なすぎる…!』

"彼氏に妊娠報告"って、バカじゃないの!?

「跳子、くじ運すっごいね。」
『何がよ!?』
「だって他のは、"実は男だと後輩の前で宣言"とか"嫁にウソつく顧問のモノマネ"とかそんなレベルなのに、よりによってそれ引くんだもん。」
『はぁ!?』

確かに他のを見ると、可愛らしい(?)というかバカな悪ノリしまくりのウソばっかりで。
唯一有り得ないレベルのウソはコレだけだった。

他のくじを手にふるふると震える私を見て、友人たちが苦笑を浮かべる。

「ごめんごめん、これはないよね。」
「しゃーないから、他の引き直しでいいよ。」
「さすがに無理だろうし。いくら跳子でもねー。」
『…!』

カッチーン

友人たちの言葉に、自分の負けず嫌いスイッチが入った音が聞こえた。
あ、ヤバイって思ったけどもう遅くて。

『無理じゃないし!やったろうじゃないの!』

そう言って友人たちが止めるのも聞かず、私は徹に部室棟への呼出しメッセージを送っていた。



「跳子ちゃん?どうかしたの?」

待ち合わせ場所で待っていると、すぐに来てくれた徹がパタパタと駆け寄ってきて。
急に呼んだことを謝る私に、「全然!」と微笑んでその場にあったベンチに座るように促す。

隣で伸びをしながら、「こんな風に呼び出されるの久しぶりだよねー」なんて笑ってる徹を見て、ごめん!と思いながらギュッと目を瞑った。

とっとと言って、とっとと終わらそう!

『あの、徹、私…、』
「んー?」
『わ、私…。っ子供ができた、かも。』

徹の反応を見たらすぐに嘘だって言うつもりでいた。
でもよく考えたら、この反応自体がすっごい怖いことに今更気付いて。
超嫌な顔されたり、自分じゃないとか疑われたらどうしよう。

(やっぱり耐えられない!)

と徹の反応を待たずに白状しようと隣を向けば、両手をふるふると震わす姿が目に入った。
あぁもう、これはヤバすぎる。

『とお、』
「…ぃやったー!!!」
『っえ、』

震える両手でガッツポーズを決めた徹が、勢いよく立ち上がる。
まさかの状況に混乱する私の両手を、そのままぐっと握りしめた。

「嬉しいよ跳子ちゃん!」
『へ。』
「あ、でも跳子ちゃんにとっては卒業とか、色々迷惑かけちゃうよね。ここまで頑張ったのにそれはごめん…。」
『や。』
「でも、俺は本当に嬉しいんだ。跳子ちゃん、結婚しよう!」
『…は!?!』

真剣な目に見つめられ、私は真っ赤になりながらもダラダラと冷や汗を流す。

(えっと…ケッコン、って、結婚!?)

ちょっとすごく嬉しいんだけど、かなり予想外で困る展開。
ニコニコと目元を緩めながら手を離そうとしない徹の様子に、私は汗が止まらない。
逆に嘘って言いづらいんですけど!

『あ、ああああの、徹、』
「ん?」
『ご、ごめん!!!』

私の様子を見てキョトンと目を見開く徹に、私は必死でエイプリルフールの罰ゲームだと伝える。

それを理解した途端、ガクリと肩を落として座った徹の表情が見えなくなって。

『ほ、本当にごめん。その、すぐに嘘って言おうと思って…。』
「…。」
『でも、あの、徹が言ってくれたことはほんとに嬉しかったよ?』

素直な気持ちを口にしながら下から恐る恐る徹の顔を覗き込もうとするが、その前に握られたまんまの手にギュウと力が籠められた。

『ん?』
「…ふーん。跳子ちゃん、嬉しかったんだ?」
『う、うん。もちろん、』
「じゃあその嘘、"本当"にしようか?」
『え。』

ようやくあげられた徹の顔が、にーっこりと笑顔を作る。
それに思わずゾクリと背中が粟立った。
…これは、かなり怒ってる!

「そうと決まれば…、家に行こうか。」
『えっ、えぇっ?徹、ちょっと待って。』

笑顔を保ったままの徹に、手を引かれて立ち上がらせられる。
ヤバイヤバイと頭の中には警報が鳴り続けるが、身体は固まって動けない。
どうこの状況から逃れようかと友人たちがいるはずの方に顔だけ振り向いてみても、静かに存在をかき消してるようで。

(ちょ、助けてよーっ!)

必死の懇願も無駄のようで、私の身体がヒョイと持ち上がった。
抱え込まれた目の前には、徹の整った笑顔。
目元にチュとキスをされて、私はそのまま呼吸が止まる。

「待たないよ。」
『っ!?』
「不用意なウソで、俺をヌカ喜びさせた分の罰ゲームだね。」
『ヒッ。』

もう二度と、この人に嘘なんてつかない。
立ち上がれなくなるくらい愛されながら、私はそう心に決めた。

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