長編、企画 | ナノ

木兎光太郎に嘘をつく


『いくら何でもバカにしすぎでしょ…。』

誰が書いたかはわからないが、あまりにくだらない。
大きなため息と共に、興味津々といった顔で待っている友人たちの方に開いた紙を向けると、皆がプッとふきだして笑う。
"実は自分は人間に化けている梟だと木兎を騙す"なんて。
バカにされているのは私じゃなくて木兎だ。
にしても、いくらあの木兎だってこんなの騙されるわけないじゃんか。

「あちゃー、跳子それ引いちゃった?や、何も浮かばなくてさー。」
『だからって何でコレよ。』
「いや、昨日姪っ子に鶴の恩返し読んだの思い出したんだわ。」

まさか自分のを引くと思わなくてさ、と続けて友人がハハッと笑った。
それを見てもう一度大きなため息をつき、私は紙を見ながらポリポリと頭をかく。

『はぁ。とりあえず言うだけ言うけど、騙せなくてもよしとしてよ?』

皆の了解を得てから、私は木兎へのメッセージを作り始めた。

***

「おぉー!跳子!」
『部活終わりにごめんね。』
「別にいいぜー!今日はもう体育館使えねーし!」

なるほど、と私は木兎の言葉に一人納得する。
確かにこんなにすんなり会えるとは思わなかった。
木兎と言えばバレー馬鹿で有名だ。
例え休憩だろうと部活終了だろうと関係なく自主練しまくると聞いていたから、部活前じゃなきゃ会うのは無理かもしれないと思っていたのに、割とあっさりOKが出たのはそういうことか。

しかし身体を動かし足りないのは明らかなようで、木兎はぶんぶんと肩をまわしている。
黙って見ていたらその視線に気づいたのか、ニカッと真っ白い歯を見せた。

「おぉ悪い。つい物足りなくってなー。」
『んー、別にいいよ。大丈夫。』
「まとりあえず、座るか。」

すぐそばにあるベンチを指差した木兎の言葉にコクリと頷きで返し、私達は並んで座る。
…ちょっと触れた肩がくすぐったい、かも。

「で?俺様に相談って何だ?」
『ん?』
「ワハハハ!相談相手に俺を選ぶなんて、わかってんなー跳子!」

"相談"なんて言葉使ったっけ?
そう思いながら、上機嫌な木兎を見ると否定する気も失せてしまう。

『…私、一つ木兎に黙ってたことがあって。』
「お?お?何だ?」
『私、実は―…、』

私をまっすぐ見つめるキラキラと輝く目。
チラリと一瞬見上げればその目と視線がぶつかるが、私はすぐに顔を伏せた。
どんなにくだらなくたって、さすがにこの瞳を見つめながら嘘はつけない。

『っ、私実は、人間に化けてる梟なの!』
「!?」

シーンと辺りが静けさに包まれる。
もっとサラリと冗談っぽく言うつもりだったのに、妙に緊張してしまった。
すぐに私は笑顔を浮かべながら顔をあげる。

「…跳子、お前…、」
『なーんて、』
「そ…、そうだったのかぁー!!」
『…は!?』

嬉しそうな顔の木兎にガッと肩を掴まれ、私の言葉は消えてしまう。

え、何コレ、まさかとは思うけど…、

「すっげぇぇ!俺、初めて見た!何だその、人外っつーの!?」
『や、木…』
「いいよなー梟!かっけぇー!じゃ何、跳子空飛べちゃったりすんのか?」
『飛べ…?いや無理、』
「あっ!でも相談ってことは、何か困ってんのか!?」

キラキラの瞳にさらに輝きが増し、そこに使命感のようなものが追加され燃えに燃えている。

(や、ヤバイこれ、信じてる!!?)

「はっ。まさか誰かにバレてイジメられてるとか!?」
『木兎、ちょい待、』
「うぉぉぉ、許せん!例え梟でも跳子は跳子だし何も変わんねーのに!な?!」
『へ?あ、うん。ありがと?』

立ち上がり暴走を始めた木兎を止めようとしたら、急にこちらを振り向くから思わず同意してしまう。

っ、違う違う、そうじゃなくて。
嘘をついているというのに、ちょっと嬉しくなってどうする私!

スーハーと深呼吸で息を整え、私は真実を告げるために木兎の方を改めて見据える。
…が、木兎が見たことないくらい真剣な表情で私を見つめていて、思わず固まってしまった。

「俺は嬉しいぞ?ホントのことを言ってくれて。それに跳子が例え何であろうとお前がいいヤツなのは知ってるし、俺は好きだぜ!」
『木兎…。』

一瞬ドキッとして言葉に詰まる。
でも木兎の"好き"っていうのは、私の"好き"とは違うのはわかってるんだ。

「何かあんなら俺に言え!赤葦にどうしたらいいか聞いてきてやっから!」
『…赤葦くん頼りかい。』
「とにかく!なんも気にすることねぇ!どうにでもなるから大丈夫だ!!」

ニッと白い歯を見せて木兎が笑う。
そんな人懐こい笑顔を見ると本当にどうにでもなるような気がしてくるから不思議だ。
根拠も何もないのに、無理矢理安心させられてしまう。

騙している罪悪感も忘れ、私はつい笑ってしまう。
どうしよう。ダメなのに嬉しい。でも少し苦しい。
そんな私を見ていた木兎が、ハッと何かに気付いたように表情を戻した。

「ハッ!跳子、それってこう、人として生きてくのに問題あんのか!?バレたら戻らなきゃとかねーよな!?」
『??どういうこと?』
「や、だから男女交際とか結婚とか!」
『…ちょっと意味が…?』
「だって俺、跳子に嫁さんになってもらうつもりだから、ダメだったら困んだけど。」
『っ、は?!』

目の前に立つミミズクヘッドの爆弾発言に驚くも、当の本人はシレッとしてる。

『し…支障、ありません。』
「お、そか。そんならよかった!」
『っというか、私木兎に二つほど言わなくてはならないことが…。』
「?」

キョトンとしながら私の言葉を待つ木兎。
伝えたいのは今の嘘についての謝罪と、私の気持ち。

これが木兎のエイプリルフール返しじゃないことを願うばかりだ。

ネタ提供:えりりん様
『木兎光太郎→人間に化けている梟』
ご協力ありがとうございました!


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