長編、企画 | ナノ

岩泉さん!


「−お。俺だ。」
「岩泉か。」

特に大きな反応もせず、岩泉は印のついた棒を弄ぶように手元でくるくるとまわした。

「岩ちゃんならあんまり大した命令とかしなそうだよねー。」
『うーん、そうだね。だって王様ゲーム自体知らなかったみたいだしね。』
「さっきの説明でどれだけ理解してるかも微妙だな。」

ククッと笑いを堪えるように小声で話しかけてきた及川の言葉に、跳子と花巻も妙に納得する。

確かにさんざん及川に説明されても、岩泉は眉間に皺を寄せたまま怪訝な表情を浮かべるばかりだった。
そんな状態のままとりあえずゲームが始まってしまったのだ。

(というか、その状態で王様を引く岩泉ってスゴイわー。引き強すぎ。)

跳子がそんな事を考えてチラリと岩泉を見上げてみれば、バッチリと視線が合ってしまった。
命令前の王様と目を合わすなんて、と慌てて目を逸らす。

「んで?王様、どうすんだ?」
「あ?あー…、まぁ要は誰かに何か命令すりゃいいんだろ。」

松川の言葉に答えながら、岩泉が頭を掻いた。
少し迷ったような表情を一瞬浮かべるが、「まぁでも、他にねーしな」なんて呟く声が聞こえる。

「んじゃ、跳子。」
『うげっ。名指し?!目を合わせたからってそんな…、』
「俺とつきあえ。」
『は…はいっ?!』

予想外の命令に、跳子が慌てて立ち上がった。
"つきあえ"の意味をはかりかね、どういうことか聞こうと口を開きかける。
が、くだらないゲームの途中とは思えないほど真剣な目で真っ直ぐ自分を見つめる岩泉の姿に、何も言えなくなってグッと言葉に詰まってしまった。

「ちょ、岩ちゃん直接指名?!」
「くじひいた意味ねぇじゃん。」
「そういう問題か?コレ。」

真っ赤な顔で立ち尽くす跳子の周りで、部員たちのブーイングが巻き起こる。
しかしそれを睨みつけるように岩泉の視線がぐるりと一周した。

「文句あんのかよ?」
「あるよ!ありありだよ!」
「あぁ?何だっけか…、"王様の言うことは?"」
「「「…ぜったーい。」」」
「…だろ。」

フンッと鼻を鳴らしてそう言った岩泉を見て、及川が小声で文句をつける。

「誰、岩ちゃんに余計なこと教えたの?!」
「「「お前だよ。」」」
「−というわけで、いいか?跳子。」

振り向いた岩泉の顔もちょっと赤くなっていて、跳子はどう返事していいかわからない。
それでも王様の言うことは絶対なんだから、今は頷くだけでいいんだと思えた。

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