●●●松川さん!
「お。俺か。」
棒の先を見た松川が呟けば、周囲から「くっそー」という悔しそうな声が響く。
あまり興味がないのか、松川が無表情のままボリボリと頭を掻いて周囲をぐるりと見回した。
「まっつん、とっとと何か言って!んですぐ次行こう!」
「お前どんだけ王様になりたいんだよ…。」
急かすように声をあげた及川を見て、花巻が呆れたようにツッコミを入れる。
それを聞いた及川がさらに「当然でしょ!」と返した。
「んじゃまぁ…。1番が−、」
『っ!』
ビクッ
松川が口にした番号を聞いた途端、跳子の肩が不自然に反応した。
それは王様である松川だけでなく、周囲にいた皆の目にも明らかで。
「えっ、何何!跳子ちゃん1番なの?」
『ち、違っ!』
「そっか1番なんだ!まっつん!俺、俺5番!」
『及川!?』
「こう、何かいい感じのヤツ、ちょーだい!」
跳子の番号を知り、持っていた数字の入った棒をブンブンと振りながら及川がアピールを始める。
怒った様子の跳子がその口を塞ぎにかかるが、もう手遅れだ。
「あー、じゃあ1番が5番に、」
「イエーイ!ギューとかでもいいよー?」
「…思いっきりビンタ。」
「うおぉい!まっつん!?」
松川の命令に及川が抗議をする横で、跳子がホッと安心したように息を吐いた。
「ホッとしないでよ跳子ちゃん!戸惑いを見せて!」
『仕方ないでしょ。王様の言うことは絶対なんだから。大人しくして、及川。』
「いや、あんなアピールしたら当然こうなんだろ。」
「俺でもそうするな。なんなら俺がぶん殴ってやってもいいぞ。」
「嫌だよ!岩ちゃんの鉄拳なんて王様ゲームの域越えるから!」
及川が思わず防御態勢に入る。岩泉が割と本気そうだったからだ。
ギャーギャーと一気に騒がしくなった部室を鎮めるように、王様が「あー」と声を出した。
「うるせぇなぁ。じゃあ命令変えてやるから。」
『えー?』
「そうして!暴力沙汰とかNGでしょ!」
仕方ないとでも言いたげなため息の後、顔をあげた松川がニッと笑う。
「−じゃあ1番。今日の部活終わったら二人で一緒に帰ろうぜ。」
『ん?松川、そんなんでいいの?』
「あぁ。」
『なんか奢り、とか?』
優しすぎる命令に跳子が首を傾げるが、松川が吹き出すように笑った。
「いや?別に跳子に何か奢ってもらおうなんて考えてねーよ。」
『そう?なんか優しすぎて怖いんだけど…。』
「んー、まぁでも…。」
疑うように覗き込んできた跳子から目を一度そらして、松川がそう呟く。
次に視線を合わせた時には、先ほどまでとは違って少し真剣な表情をしていて。
「確かに下心はあるからな。」
『やっぱり?』
「俺そん時お前に告白すっから。色々と前向きに考えてみてくれな。」
『…えっ?!』
サラリと言われた松川の言葉に、跳子の呼吸がヒュッと止まる。
その言葉の意味を理解した次の瞬間には、耳まで真っ赤になってしまっていた。
「ちょ、何コレ!ビンタのがマシだった!」
「さすが松川。」
「確信犯だな。」
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