長編、企画 | ナノ

及川さん!


「ここはもちろん!俺が王様だよー!」

赤い色のついた棒を高々と掲げ、及川が満面の笑みを浮かべた。

『うげ。』
「ふふーん気持ちいいねっ。」
「なんかすげー腹立つな。」
「何さ、下民ども。王様の言うことは?」
「「『…ぜったーい。』」」

げんなりとする部員たちをグルリと一度見回してから、及川がふんっと鼻を鳴らす。

「じゃあねー、まず1番が肩もみね。2番がコーラと3番が牛乳パン買ってきて。4番が…、」
『ちょ、全員に命令する気?』
「こんな王様、絶対やだわ。」
「しかし割と言ってることはしょぼいぞ。」
「っつか、思ったんだけどよ…。」

及川が意気揚々と命令を続ける中、平民たちはこそこそと耳打ち。
全員への命令が終わると同時に、及川の号令で皆がバラバラと命令のために動き始めた。

「ほら、1番だれー?肩もみだよー。」
「…俺だな。」
「おっ、まっつん。じゃあよろし−、」
「跳子。そこ座れ。」
『うん。』
「…ん?」

おもむろに松川が跳子に肩もみを始め、及川が思わず首を傾げる。

「おー、結構凝ってんなぁ。」
『超気持ちいー…ありがとう松川さんや。』
「いやいや。王様の命令だしな。」
「んん?」
「だって別に"王様の肩"とは言われてねーし。」
「はぁぁ?!」

座っていたイスをガタンと鳴らして及川が大きな声を出す。
そこへ2番の岩泉と3番の花巻も帰ってきた。

「おー、買ってきたぞー。」
「岩ちゃん!マッキー!聞いてよ!まっつんが−、」
「「っつーわけで、いただきまーす。」」
「えっ?!」

岩泉と花巻が、買ってきたコーラと牛乳パンを美味しそうにそれぞれの胃の中に納める。
そして続々と帰ってきた後輩たちもそれに続き、結局及川がおいしい目を見ることはなくて。

いじけたように「ヒドイ!」と涙目で騒ぐ王様を前に、平民たちがニヤリと笑った。

「俺らも"買ってこい"って言われただけだしな。」
「そうそう。買ってはきたから文句ねーだろ。」
「命令には従ったよなぁ。」
『ね。』
「ちょっと皆ズルくない?!」


−あまり横暴が過ぎると、反旗を翻した平民たちから下剋上を食らうようです。

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