長編、企画 | ナノ

澤村大地



「とりあえず、こんな時間だからなぁ。」

私は結局、目の前で頭を掻くこの人の名前を叫んだ。
目を一瞬キョトンと見開いてから「おぉわかった」と笑ってくれた澤村先輩の本心が私にはわからない。

それでも一緒に過ごせることが嬉しくて嬉しくて、さっきから顔が熱い。
普段絶対必須な手袋をはずして頬を挟み、熱を冷ますようにして先輩の後ろを歩く。

「跳子、どこか行きたいところとかあるか?」
『えっ、いえ、特には…!』
「そうか。俺もあんまりそういうの、詳しくないんだよなぁ。」

しまった。どこか希望を言うべきだったか。
澤村先輩の困ったような顔を見てそんなことを思う。
でも、あんだけ散々イベントイベント言っておいてなんだけど、澤村先輩と二人なら本当にどこでもいい。
むしろどこに行かなくてもよかった。

もう遅い時間だし、澤村先輩だって連日の練習で疲れているはずだ。
一緒に帰れただけでも幸せだし「このまま帰りましょう」と言いかけたが、澤村先輩がその前に「あぁ」と口を開いた。

「そうだ、あそこなら…。跳子、寒くないか?」
『え?全然大丈夫です。』
「じゃあちょっとつきあってくれ。」

大丈夫と言ったはずなのに、澤村先輩が自分のマフラーを外して、私の首をぐるぐるに巻いた。
フッと笑った先輩の吐く息が白い。

「プラネタリウム…、代わりの自然公園ってとこか。無料のな。」
『星!見たいです!タダで!』

あははと笑いあって、私たちはその先にある自然公園へと向かった。

途中で「せめてこんくらいは」と澤村先輩が飲み物を買ってくれて。
実はここに来るまでに肉まんもオゴッてもらってるから何だか申し訳なくなる。
それが伝わってしまったのか、先輩が少し苦笑いを浮かべた。

「ただでさえカッコつかないんだから、これくらいさせてくれ。」

どこがカッコつかないのかは全くわからなかったけど、何となくこくりと頷いた。


自然公園に着くと、思った以上に空が広くて私たちは息を飲む。
寒さを忘れて二人で天を仰げば、冬の冷たい空気でより凛と澄んでいる夜空に輝きを増した星が瞬いた。

一番先に見つかるのは、私でも知っているオリオン座。
次にその一つを起点とした冬の大三角もハッキリと見えた。

言葉もなく星を見つめる私を見て、澤村先輩が小さく微笑む。

「…よかった。」
『本当に。よく見えてよかったですね!嬉しいです。』
「いや、それもだが…。」

もう一度空を見上げた澤村先輩が、一つ間を置く。

「…選べとか偉そうに言っておいて、他の奴の名前が出たらどうしようかと内心ビビってたんだよ。」
『えっ?!』

驚いて先輩の方を向いたけど、先輩は空を見たままで。

「お?あれが冬のダイヤモンドってヤツか?」

先輩が指差す先には、オリオンも大三角もその内に閉じ込める、見事な冬のダイヤモンド。

「跳子、メリークリスマス。しょぼくてごめんな。」
『ううん、何よりも贅沢です。』
「…でもいつか本物をやれたらとは思ってるよ。」

そして澤村先輩が、未来の約束を私にくれた。


−冬のダイヤモンドに手をかざそう

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