長編、企画 | ナノ

プロローグ



今日はクリスマス。
街中にはクリスマスソングが流れ、その中を恋人たちが手を繋いで歩く。
TVや雑誌ではイルミネーションの特集が組まれ、誰も彼もみんな笑顔だ。


しかしここ烏野高校男子バレー部には仏頂面をしている女子が一人。

『クリスマス、なのに…!』

春高全国大会を目前に控えるバレー部は通常営業。
それはもちろんマネージャーである跳子だってわかっているし、むしろ喜ばしいことだと思っていた。

それでも、昨日のクリスマスイブから続々と友人が送ってくれる幸せそうな写メを見ると、何か一つくらいクリスマスっぽいことをやりたくなってしまって。
家に帰ればケーキくらいあるかと思っていたのに、両親は思春期の娘を置いて意気揚々とデートに行ってしまったことが追い討ちとなった。


『うぅぅー…イベント…!クリスマスイベント…!』

真冬だというのに、体育館は熱気で暑いくらい。

汗が冷えないように拭きながら、未だにぶちぶちと呟きつつ仕事をこなす跳子を見て、澤村がはぁと短くため息をついた。

「あーもーわかった!跳子!部活終わったらどっか連れてってやるから。」
『っホントですか?!皆で?』

澤村の言葉にパァッと顔を明るくさせて跳子が振り向く。
皆もその声に同じように振り向き、その中で月島が顔を歪めた。

「…ちょっと主将。僕は皆でクリスマスなんて…、」
「月島。…跳子のあの喜びようを見ろ。」
「…。」

月島の言葉を遮るように肩に置かれた菅原の手。
その反対の手が指す方向には、今にも浮かれて飛んでいきそうな跳子の姿があった。

「これじゃ拒否権なんてないねぇ。」

ハハハと笑った東峰の声に月島がため息をついた時、澤村が「月島」と呼びかけた。

「心配するな。」
「?」
「…跳子。ただし、"皆で"じゃない。」
「「『??』」」

再び跳子の方に向き直って言った澤村の言葉に、全員が首を傾げる。

「一緒に過ごす相手を、お前が選べ。」
『えぇ?!』
「…それって生けに…、」
「ツッキー、シッ!」

(ちょっと待ってこれ、選ぶって=告白じゃ?)

後ろで繰り広げられる不穏な会話に気付かずに、跳子は一人慌てる。
思ってもみなかった選択肢だが、それでも答えは一つしか浮かばなかった。

「跳子、どうする?」

しかし考えもろくにまとまらないうちにニッと笑う澤村にずずぃと答えを迫られ、跳子は思わず頭の中に浮かんでいるたった一人の名前を叫んだ。

(えぇい!こんな機会ないんだから、ラッキーだと思え!)


−さぁ誰と過ごす?

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