長編、企画 | ナノ

菅原孝支



菅原先輩の名前を叫んでから恐る恐る視線を向けてみたら、菅原先輩はいつも通り笑いかけくれたからホッと安心した。

といっても、だいぶ遅くなった帰り道に出来ることは限られている。
駅前に立ち寄り、閉店間際のカフェでケーキセットを頼むので精一杯だった。

ショートケーキやブッシュ・ド・ノエルなんかは当然売り切れていて、飾り気のないチーズケーキとシフォンケーキを頼んだら、店員さんが気遣ってくれたのか"Merry X'mas"と書かれたプレートとオーナメントをつけてくれた。

「跳子、メリークリスマスー。」
『メリークリスマス!先輩、ありがとうございます。』

温かいコーヒーカップを手に二人で乾杯。
グラスのような高い音はしなかったけど、陶器のぶつかる音がなんだか胸に響いた。

本当に心からそうお礼を言ったのに、菅原先輩は眉根をさげて「ごめんな」なんて一言。
謝ることなど何もないくらいに幸せなのに、どうしたら言葉にせずそれが伝わるのか。
私は結局ただぶんぶんと必死に首を横に振るしか出来なかった。

先輩と一口ずつ交換して二つの味を楽しむ。あぁもう幸せ!
互いにペロリと平らげたのにもう閉店の時間を過ぎていて、私たちは慌てて席を立った。


「ありがとうございました!」
「ギリギリにすいません。こちらこそありがとうございました。」
「いえ。メリークリスマス、お二人に幸せが訪れますように。」
「ははっ、おかげさまで幸せッス。」

お会計をしながら店員さんとそんな会話を交わし、最後にニッと笑った菅原先輩の言葉に私は横で顔をあげる。
相向かいの店員さんも笑ってて、私だけが驚き顔だ。

そのまま菅原先輩と並んで外に出て、元来た道を戻り始めた。

『菅原先輩、ごちそうさまでした。美味しかったし嬉しかったです。』
「おー。これくらいでそんな言ってもらえるなんて、跳子は律儀だなぁ。」
『…あの、』
「ん?」
『……何でもないです。』

さっきの店員さんに言っていた"幸せ"について聞きたかったけど、私は途中で言葉をひっこめた。
よく考えれば深い意味なんてなさそうだし。

足元を見つめて歩いていると、少し無言の時間が流れた。
すると、視界の隅で同じ間隔で刻まれていたはずの菅原先輩の歩みがふと止まった。

『…?菅原先輩?』

私も立ち止まって振り向けば、一歩後ろで菅原先輩がコートのポケットを探っていて。
何か忘れ物でもしてしまったのかと見つめていたら、菅原先輩が私の目を見ていつもの笑顔をくれた。

「おっ。こんなところにプレゼントが…!」
『えっ?私に、ですか?!』

差し出された菅原先輩の掌に乗るのは、クリスマス包装を身に纏った小さなプレゼント。

「おー。いつも頑張ってくれてるから…、と言う理由付けで渡そうと思ってたんだけど、もういいべ。」

受け取ろうと手を伸ばした私の耳に、予想外の言葉が飛び込んできて。
バッと顔を上げたら、菅原先輩の顔が赤くなっているのがわかった。

「…跳子。俺を選んでくれたってことは期待していいってことだよな?」

モチロンです、と小さく言った答えは菅原先輩の赤い耳に届いただろうか。
先輩の手から私の手に渡ったプレゼントは、先輩の優しい温もりを帯びてとても暖かく感じた。


−ポケットサイズのプレゼント

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