●●●4:00 a.m.
『ん…。』
布団の中でみじろいで、ゆっくりと目を開けた。
働かない頭で、部屋の灯りよりも先に携帯に手をのばせば、時計の表示は4:00ちょうど。
『あふぁ…。』
そのままもう一度目を閉じるかどうか一瞬悩んだが、私は結局むくりとベッドの上で体を起こす。
当然のように出てきたあくびを噛み締めながら体を伸ばせば、ギシリと背中が軋んだように感じた。
随分と変な時間に目覚めてしまった。
朝に弱い私がこんな時間に目覚めてることなんてほとんどないから、すごく眠いのにちょっとレアな気分にもなる。
何となくカーテンを開けて空を見上げてみると、まだ随分と薄暗い。
東の方は薄らと白んできているけど、反対側はまだ濃紺で星が見える。
普段はあまり目にすることのない夜と朝の境目。
その空気に触れたくなって、私は静かに窓を開けた。
カラカラという遠慮がちな音が静かな部屋に響く。
(旭くん、何してるかな…。って当然寝てるよね。)
想いを馳せる人物を頭に浮かべながら星を見つめ、そのまま何となく下に視線を落とした。
すると頭に浮かべていた人が驚いた顔でこちらを見上げているのが見えて、私も一人部屋で小さく息を飲む。
『っあ、さひくん?』
慌ててジェスチャーでその場に居てもらうよう伝え、私は慌てて階段を下りた。
でもなるべく足音は立てないようにしないと。お母さんたちが起きてしまう。
玄関をそっと開けて、ひんやりとした夜明け前の独特の空気の中に飛び出せば、申し訳なさそうに電柱の裏で肩をすぼめている旭くんの姿が目に入った。
…うん、全く隠れてないよ。
私は彼の元に駆け寄りながら、小さく声をかける。
『どうしたの?こんな夜遅く…というか朝早くに、かな?』
「ごめん。まさか会えるなんて思ってなくてビックリしたよ…って、ちょ、もしかして俺、ストーカーっぽい?ちちち違うんだよ跳子ちゃん!」
目が合った途端に嬉しそうに目を細めたかと思えば、次の瞬間には途端に慌てはじめる旭くん。
シーッと人差し指を口に当ててみせると、旭くんはむぐっと口をつぐむように自らの手で押さえ込んだ。
少し目が潤んでいるような彼を見て、私がくすくすと笑いながら「そんな事思ってないよ」と伝えれば、少し困った表情を浮かべて旭くんが肩をおろす。
「俺、眠れなくて。でもどうせだったらとジョギングしてたんだ。そのついでに、その…ちょっと跳子ちゃん家の前通ってみようかな、と思って…。」
背の高い旭くんが背中を丸めて縮こまり、もう一度「ごめん」と謝る。
見た目はこんなに怖そうで、でも試合中はあんなにカッコいいのになんでこうヘタレくんなんだろう?
まぁ私はそんな旭くんが好きなんだけど。
『ううん、嬉しいよ。私も普段はこんな時間に目が覚めることなんてないから、なんかスゴいよね。』
「よかった。その、俺も運命っぽいなー、なんて思って…」
そこまで言って恥ずかしくなったのか、旭くんが頭を掻きながら目を逸らした。
なんだかそれに胸がキューッとして、私は旭くんにくっつきたくてウズウズしちゃう。
あたりをキョロキョロと見回してみたけど、こんな朝早くに人の気配なんてない。
(えいっ!)
外だというのは解ってるけど、私はポスンと大きな彼の胸に飛び込んでみる。
「っ跳子ちゃん!?ちょ、俺、今汗臭いから…!」
『んー?』
ハッキリ答えずに私はそのままの体勢を崩さない。
旭くんも慌てているけど、優しい彼は私を引きはがすなんて事はしない。
汗臭くなんてない。
でも私が抱き着いてからカッとあがった旭くんの身体の温度が愛しかった。
夜から朝へと変わっていく4:00am
まだ本当の太陽も目覚めていないのに、旭くんはここにいる。
ちょっとした非日常にドキドキして、私の体温もきっとあがっているんだろうな。
そんな事を思いながら、オドオドした私のお日様くんをチラリと見上げれば、やっぱりその顔は真っ赤だった。
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