長編、企画 | ナノ

2:00 a.m.


※携帯のLINEアプリをやらない方には、わかりづらいと思われる描写があります。申し訳ありませんがご了承ください。


2:00am−

妙に寝つけない時って何をしても無駄だったりする。

普段はベッドに潜ればすぐに眠りにつく方なので、こんな事は本当に珍しくて。
何度も何度も寝返りをうって、温かい物を飲んで、羊を数えて、やがて諦めた。
ふぅと一つため息をついて枕元に置いてあるスマホを手に取れば、小さいけど明るい光が私の顔を照らした。
暗闇に慣れた目にはちょっと痛いくらいに眩しくて、私は思わず目を細める。

何となくLINEアプリを起動し、一番上に表示されている澤村とのやり取りを開いた。
こんな時間に連絡するつもりは毛頭ないが、何となく今までのくだらないやり取りを見てフッと笑う。

澤村とは1年の時から気が合って。
男女の友情ってヤツを順調に育んできた仲だ。
でも本当は私の中ではもうずっと別の感情がある事に、ちょっと鈍い彼は気づいていない。
私としても隠しているつもりだからそれで全然よかったのだが、3年になったからかそれとも修学旅行が近いからか、最近になって彼の周囲が一層ザワついている気がして少し焦ってもいた。

前々から澤村を遠目に見ている子はそれなりに多いと聞いていたけど、彼の部活に集中する姿にチャレンジする子は少なかったんだと思う。
この状態を壊すのが怖くて伝えるつもりはないくせに、他の子とどうにかなるのも困るんだ。

そんな事を考えながら、ふと"私が「好き」なんて送ったら澤村はどう思うのかな"なんて思って、試しにスマホに文を入力してみる。

【ずっと前から澤村の事が好きだよ】

普段は絶対につけないハートマークなんかもつけてみると、自分のキャラじゃないなと改めて思った。
ダメだ恥ずかしいし、何よりキモイ。
可愛くて素直な女の子には程遠いのだ。

ため息とも言えるようなモノを一つつき、私はその文章を消そうとカーソルを合わせるために画面に触れようとした。
その時、突然スマホがブルッと震え、私の指先は目測を誤って【送信】と書かれたボタンに触れてしまって。

『ヒィッ!』

思わず息を飲んでベッドからガバリと身体を起こし、必死に画面を戻してみても送ったものは取り消せない。

(どうしよう、どどどどうしようー!!)

相手を間違えちゃった、とかごまかそうかと思ってみても、しっかり澤村の名前を入れてしまっているからどうしようもない。
自分のバカさ加減に頭を抱え、どうしたもんかと半ばパニック気味でスマホを握りしめていたら、もう一度それがブブッと震えた。

そうだ、誰からかは見ていないけど、さっきもそのせいで手元が狂って送信を押してしまったのだ。

腹立たしい思いで画面を確認すれば、それはまさかの澤村からのメッセージだった。

(ゲッ!起きてたの?!それとも起こしたの!?どっちにしろ見たくない〜っ!)

しかしたった今自らメッセージを送ってしまったからには起きていることはバレているし、ここで朝までスルーなんて感じが悪すぎる。

仕方なく、画面上に表示されている最新のメッセージだけ恐る恐る薄目で見てみる。

【よかった。】

『…はぃ?』

澤村のメッセージの意味が解らず、つい独り言が飛び出る。
表示されてる最新メッセージをポカンと見つめていると、続いて連続で彼からのメッセージを受信した。

【今勢いで送信しちゃったからどうしようかと思ってたところだったから驚いた。】
【ちょっと俺、色々興奮しすぎて今ヤバイ。明日改めて言わせてくれ。】

『…??』

相変わらず意味が解らないが、なんだかすごいことが起こっているような気がしてきた。
ドキドキしたまま、私が【送信】を押すきっかけとなった一番最初のメッセージを見るために、澤村とのページを全部表示した。

私の見ていないメッセージは一つだけ。
澤村からの4つ前の受信メッセージには短い吹出しでただ一言。

【跳子が好きだ】

そしてその直下には、私から送信したあのメッセージ。
まったく同じ時刻が表示されているソレは、まるで澤村からのメッセージへの返事のようで。

…何コレ、本当なのコレ。

気が合うとは思っていたけど、こんなタイミングまで一緒だなんて。

夢だったらと思うと怖くて、今夜はもう眠れそうにない。
でも明日、彼と顔を合わせた時に隈がヒドイなんてことにもなりたくない。

無理矢理布団にもぐりこみながら、それでも信じられない思いでスマホをギュッと胸に握りしめる。
するともう一度それが震えて、私に最後の受信を知らせた。

【あぁでも、明日ヒドイ顔してても"なかった事に"なんてしないでくれな。】

どうやら澤村も私と同じようだ。

私は恥ずかしそうに頬を掻きながらそう言っている彼の姿を想像し、プッと笑ってから一言だけ返信をした。

【私もきっとヒドイ顔だからお互い様だね】

素直になるのなんて、実は案外簡単なのかもしれない。

こんなにも「早く朝が来て欲しい」と望んだ夜は、きっと今までなかったと思う。


深夜2:00
草木も眠る丑三つ時。

―今なら幽霊とだって語り合えそうだ。


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