長編、企画 | ナノ

そんな僕らの君論理


Case1:研磨

『休憩入ります〜!ドリンクとタオルどうぞ!』

合宿も中盤に入り、おれ的にはこの暑さにもぐったりしているのに、今日も鈴木さんは元気にパタパタと走り回ってる。

最初は目を合わせることも難しかったけど、最近はそれなりに話せるようになってきた。
まぁみんなが言うように可愛いなとも思うし、個人的にはちょっと面白いなとも思う。

『ハイ!研磨さんは薄めがお好みでしたよね?』
「あ、うん。ありがとう。」

ぼーっと見てたらそれに気づいたのか、鈴木さんがボトルを渡しに来てくれた。
そして何故かそのまま隣に座った彼女に、おれは少し動揺する。

『研磨さんってゲーム得意なんですよね?』
「得意、というか好きなだけ。」
『私前にPSPのモンハンを友達に言われて一緒にやってみたんですけど、どうやら下手みたいで…。』
「ふーん…。」
『そもそも3Dで歩くのができなくて。地図も読めず向かう方向もわからず、やっと追いついたと思ったら皆戦ってるのにその敵が見えないという…。』
「あぁ…同じタイミングでそのエリアに入らないとダメなんだよね。」
『しかも笛。可愛く魔法とかで戦うのかと思って笛にしたのに、ひたすら滅多打ちって…。』
「…初めてで随分マニアックな武器に行ったね。」

鈴木さんは自分で人見知りとか言ってたけど、絶対違うと思う。
だってこんなおれと一緒にいてもすごく楽しそうに話してくれる。

『あっでも肉焼くのだけは完璧でした!』
「…ぷっ。」

すごくドヤ顔を決めて親指を立てる鈴木さんに思わず吹き出してしまった。

「…じゃあ今度、」

"一緒に"と言いかけた時に、ニヤニヤと笑って近づいてくるクロの姿に気が付いた。


Case2:黒尾

「何、研磨。跳子ちゃん攻略中か?」
『?』
「クロ、変な言い方しないでよ…。ちょっと話してただけじゃん。」

研磨が苦々しげな顔をそむけて、その場を離れる。

「…それにしても跳子ちゃん、隅に置けないねぇ。」
『??何がですか、黒尾さん。』

研磨があんなに女の子と話してるのなんて、それなりに長いつきあいの中見たことねーんだけど。

「まーいーけど。にしてもさ、研磨だけ名前呼びってのもズルいよなぁ〜。」
『え。ズルいってなんですか?だって皆呼んでるんですもん。』
「…俺の名前は?」
『いや、知ってますけど…。』
「んじゃ言ってごらん。"鉄朗くん"。ハイどーぞ。」
『てつ…?…無理ですよ〜!』

この子はこんなんで顔赤らめてて、この先やっていけんのかね?

『そもそも"朗らか"って感じじゃ…』
「ん??」
『ひゃぅ!ごめんなひゃい!』

ぼそりと聞こえた単語に微笑んで頬を挟んでやれば、途端にビビって目を潤ませる鈴木。
そのままじっと目を覗き込んでみるが…

『???』

…やっぱかわいいな、コイツ。
最初は"ちょっと面白そうだな"くらいなもんだったが、鈴木が手伝ってくれて実際ものすごく助かっているし、身も心も目も癒されるし、いい子だし。

ただ難点としては…

「跳子〜っ!!」
『あ。リエーフひゃん。』

…元々うるさかったヤツがさらにうるさくなった事くらいか。

(…そういやコイツも名前で呼ばれてんな。後で殴るか。)


Case3:リエーフ

「跳子〜っ!!」

大変だ!跳子がクロさんに襲われてる!!

「クロさん!跳子を離してください!」
「あぁ?」

俺はクロさんの手から跳子を引っ張って腕の中へ閉じ込める。

「今クロさん跳子に、無理矢理キスしようとしてたッスよね!!?」
「はぁ?!!」
『!?』

俺はこの目でしっかりと見た!俺が跳子を守るんだ。

「ってめリエーフ!何大声で適当なこと…」
「…黒尾〜。ちょっと来なさい。」
「!ね、こまた監督…いや今のは…」
「いーから。」

最後にギロリと一睨みして、クロさんが猫又監督の元へ向かった。
俺は安心と喜びで跳子の身体をギューっと抱きしめる。

『きゃっ、リエーフさん、離し…』
「跳子、無事でよかった!」
『いや、無事も何も…』
「ん〜跳子、可愛くてやわらかい〜。」

やっぱり跳子は色々と最高だ。
見てよし聞いてよし触ってよし、だ。すぐに赤くなるとことかもなんかいい。純情大和撫子。

「…俺やっぱり、跳子のこと帰したくないっ!」
『えっ!?』
「うちに居ればいい!なっ、跳子!」
『いや、そんなペットみたいに…。』

もう離したくない…と思っているところに、ケツにズバンと激痛が走る。

「アグァッ!!」
「おめーは痴漢かバカ野郎っ!!」
『夜久さんっ!?』

ちっちゃい身体で威力はなかな…「ズビシ!!(2発目)」

いってー…声に出してないのに…!


Case4:夜久

「ごめんなー、本トに毎度毎度このバカが…。」
『い、いえ。…リエーフさん起き上がりませんけど、大丈夫でしょうか…?』
「あぁ大丈夫大丈夫。」

俺は遠くで固まっていた山本を呼んで、リエーフを回収させた。
本当にこの子は相手の心配なんてしてる場合じゃないでしょーに。
今なんてはたから見てたら2mバカに喰われかけてたよ。
俺の言葉に安心したのか、跳子ちゃんが俺を見て一言お礼を言った。

『ありがとうございます。確かにちょっと苦しくて困ってました。夜久さん、ヒーローみたいですね。』
「えぇ?」
『かっこよかったです。』
「!!」

ズッキューン

俺的に、かわいいじゃなくてカッコイイは殺し文句だ。
っつかこの子、本当に色々とヤバイよね。
なんだかんだ油断すると多分皆すぐモッてかれると思う。
烏野の連中の苦労が目に浮かぶようだわ。
性格いいし、いつも一生懸命だし、可愛いし…。

『あ、あとレシーブの時なんですけど…』

まぁ俺ら的に何がいいかって、特にバレー大好きなところとかね。

「ヘイヘイヘーイ!バレーの事なら俺に聞けぇーい!」
『木兎さん!』

(え?俺の次コイツ?!)


Case5:木兎

「おー!鈴木ちゃん!なかなかヤるね!」
『そんな事ないですよ木兎さん!でもその代りこれに勝ったら…』

バレーボール談義に花を咲かせてたら、鈴木ちゃんが突然俺のスパイクを見たいって言ってきた。
別に全然構わないけど、ちょっと出し惜しんでみたらいつの間にか勝負ってことになって。
自分の身一つでできる勝負ってことで、全国共通"あっち向いてホイ"が始まったのだ。
しかしこの俺と互角に戦える女がいるなんて、正直結構ビックリだ。

『あちむてフォイィッ!!』
「あっ!!」
『!』
「チックショオォ!負けたぁぁ!」
『フフフッ』
「鈴木ちゃんイイネー!仕方ない!好きなだけ見せてやるよ!俺の天才的な技を!」
『わぁ嬉しい!!ありがとうございます!』

ぐりぐりしながら言うと本当に嬉しそうに反応する。
いやぁでもこの子と話してるとなんか気分いいねっ!
なんつーかチビちゃん系?
素直に反応示してくれるっつーか。こんな子とつきあえたら俺一生最高ーっ!


「赤葦〜!ちょっとトスあげて!」
「?ハイ?なんですか急に。」
『お願いします、赤葦さん。』
「鈴木さん?いや、別にいいけど。」

並んで体育館に入る俺に、赤葦が冷たい目を向ける。

「っていうかさっきから何バカなことやってたんですか。恥ずかしいんですが。」

相変わらず辛辣だな、赤葦!たまにはノッてきて!


Case6:赤葦

「ヘイヘイヘーイ!いいトスよこせー赤葦!」

相変わらず単純な木兎さんはクロスもストレートも使い分けながらスパイクを打ちまくる。
好きなことだからか、木兎さんのスパイク練にはきりがないくらいだ。
しかし今何よりも驚いたのは、木兎さんのスパイクをレシーブする鈴木さんの姿だ。

『やっぱ威力も落ちないな…スゴイ…。あの超インナーは狙ってはまだ無理なのね…。』

ブツブツと言いながら、次のスパイクを待つ鈴木さん。

初めて会った時(といっても最近だが。)には、ふんわりして可愛らしい子という印象だったが、それだけってことはなく色々と只者ではなさそうだ。

どちらにしても好感を持てる、という点では全く変化はないままだけど。

『−ありがとうございました!』

そのまま何回か打ち続けた木兎さんと俺に、鈴木さんはお礼を言って満足げに笑った。
思わず俺は近くに行って話しかける。

「鈴木さん、バレーやってたの?レシーブすごいね。」
『いや、そうゆうわけでは…』

何故か恥ずかしそうな鈴木さんだが、こんな秘密めいたミステリアスな魅力もあるのか。
もう少し話していたいと思ったが、コートの外から鈴木さんを呼ぶ声が響いた。

「鈴木!」
『影山くん?』

パタパタと烏野セッターくんに駆け寄る彼女を見送り、木兎さんと一緒に次のコートに向かう。
もうすぐ休憩が終わる時間だ。だが…

(なんか俺、彼にすごい見られてるんだけど…。)

ギンっと睨みつけるようにして見つめてくるのは影山だった。


Case7:影山

鈴木と一緒にいる梟谷のセッターに話しかけたい。セッター魂について語りたい。

その一心で鈴木を呼んでみたが、思惑とはずれ赤葦さんは別のコートに行ってしまった。
名残惜しくその背中を見つめていたら鈴木がプッと笑った。

「?」
『あはっごめんね影山くん!橋渡しのお役に立てなくて。』
「!いや…、」
『どちらにしてももう休憩が終わるから後でもう一回一緒に行こうよ!』
「…おぉ。サンキューな。」

鈴木と二人並んで、俺達も次のコートへ歩き出す。
歩きながら鈴木が変な事を言った。

『そういえば影山くんのその"見たい聞きたい話しかけたい"って顔に助けてもらったことがあったなぁ。』
「は!?」
『中1の時。及川さんに捕まってた時に影山くんが後ろからその顔で睨んでたから、それで及川さんの気をそらして逃げさせてもらった事があるんだ。』


俺はあまり覚えていないが、何かの大会で及川さんが白鳥沢の女の子を追いかけてたのを見たような気がする。
あれは今思えば鈴木だったんだろう。
ちらりと見かけただけだったがすげー可愛いって思ったのは覚えてる。

俺は横を歩く鈴木をじっと見つめる。
身長はあまり伸びなかったようだが、あの頃よりも幼さが消え、キレイになったように思えた。
昔からバレーばかりでそういう事にはあまり興味がなかった俺だが…

『今更だけど。影山くん、ありがとうね。』

…この笑顔はすげーいいと思う。
どちらにしても、及川さんに鈴木をとられるのは癪だということだ。


Case8:及川

「ぶぇっくしゅ!」

練習を終えて更衣室で着替えている最中にくしゃみした俺に、皆辛辣な言葉を投げかける。

「てめぇこんな大事な時期に風邪ひくとかやめろよ!」
「ちょっと寄らないで、うつるから。」
「ヒドイよ!」

俺的には寒いわけでもないので、誰かが噂をしてるのかな?とか思った。

「…跳子ちゃんだといいな。」

初めて出会った時は、まだ中1だった彼女はとにかく可愛らしかった。
幼馴染だと言うウシワカの後ろにいる彼女は、大人しい感じかと思いきや意外と言う事はしっかりしていた。
そのギャップにもすぐさまやられたんだよね。
俺に会うと嫌な顔(それもまた可愛い)はしても、挨拶はちゃんとしてくれちゃうような子だった。

それがもう高校生になっていて、予想通り、いや予想以上にすっかりキレイと可愛いを併せ持つ女の子に成長していた。
白鳥沢じゃなくて烏野ってところには未だ納得できていないけどっ。
ここで運命的に再会したんだから、今度こそ連絡先を…


「あ、鈴木からのメールに返信してねぇや。」

隣りから岩ちゃんの呟きが聞こえた。
はっ?どゆこと?跳子ちゃんからのメール…?

「岩ちゃん、何今の!?聞き捨てならない!」


Case9:岩泉

「あ、鈴木からのメールに返信してねぇや。」
「はっ?」

あ、やべ。

思わず及川から鈴木の名前が出たから無意識に俺は言葉にしちまった。
及川が面倒だから、彼女の連絡先を知っていることを黙っていたのに。

とりあえずギャーギャーと騒ぐ及川を抑えつつ、携帯を死守だ。
というかそもそも連絡先を交換した理由は、コイツだったんだけどな。

1年くらい前に鈴木と街中でたまたま会った時に変なヤツに絡まれていたから、友人とやらが来るまで一緒に居たことがあった。
顔は知っていても直接話したことはあまりなかったが、バレーの話をしてりゃ互いに笑顔になれるような感じだった。
真摯にバレーに向き合っていることがわかったし、そんなにうまくない俺の話をシッカリと聞いてくれる姿。
見た目云々ももちろん可愛いと思うが、俺が惹かれるのはそういうところが大きかった。

結局バカ及川の愚痴とも言える俺の話に同調した鈴木と、連絡先を交換したんだ。

たまにメールをしても実際に会うことはなかったので、先日のIH予選で姿を見た時には少し大人びていてビックリしたが。


「なんで岩ちゃんが!?ずるいよ!!」

まだ騒いでる及川を花巻たちに捕まえててもらい、俺はメールを見る。
丁寧で女の子らしい文章が綴られているそれは、最後は応援の言葉で締められていた。

「ズルいも何もないだろ。俺だってあの子は欲しいさ。」

及川の一際大きな絶叫が部室に響く中、俺は部室から表に出た。
手の中の携帯が、ほんのりと熱を帯びているように感じた。


リクエストありがとうございました!


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