長編、企画 | ナノ

残り物には福がある?


「鈴木さん!おはよ!」
『あ、おはよう、ございます。梅木多さん。』

梅木多さんがパァッと明るく笑いながら、彼女の友達2人と一緒に私の席にやってきた。
その手には何かの雑誌を持っている。

先日教科係で話してから毎日のように話しかけてくれ、その繋がりで彼女の友達とも少し話せるようになった。

「ねぇねぇ。このスカートすごい可愛くない?!」
「本当だ〜!でもこんなのこういうモデルの人じゃないと着れなくない?」
「あーだよね。もっと無難な色と形じゃないと無理だよねー。」
『…っ。』

私が言葉に詰まっている間に、梅木多さんがため息をつきながら雑誌をペラリと次にめくる。
あぁまた言葉にするタイミングを失ってしまった。

(そんなことないのに…!梅木多さんなら上に短めのシャツとか合わせても絶対に似合う!!)

心の中ではそんな風に思えているのに、やはり口にするのは難しい。
それでも彼女らはそんな私にも声をかけてくれる。

「鈴木さん?どうしたの?」
『…短いシャツ、とかと一緒に、はどうですか…?』
「えっ?!あ、さっきの?」

梅木多さんがページを戻して指さしてくれたので、私は小さくコクリと頷く。

「シャツか…、でも確かにそれならここまでハードル高くない、かも?」
「そうかも。しかも短めならこのポイント隠れないし!」
「だったら今持ってる服でも十分合わせられるような気がしてくるわ。」

ワッと明るい顔で話を続けてくれる彼女たちを見て、私もすごく嬉しくなる。
でも3人に同時にバッとこちらを見られて、私は慌てて顔を下げた。

「鈴木さん、すごいー!ねっ!やっぱり今度一緒に買い物行こうよ!」

一際明るい声を出す梅木多さんのお誘いに戸惑っていると、前の扉から担任の先生が入ってきた。

「オラー。自分の席につけー。」

慌ててガタガタと皆が席に戻るのを見て、先生がおもむろに口を開いた。

「というわけで、席替えすんぞー。」
「「「どういうわけで!?」」」
「いや、最初に適当に席座ってもらってからしてなかったからよ。思いつきだ、思いつき。ほら、くじ用意したからさ。」

文句を言いながらもなんだか浮き足だっているような教室。
皆がくじをひき終わったくらいの適当な頃合いを見て、私も席を立って教卓に置いてあるくじを引く。
と言ってももう最後だからか手に触れたのは1枚だけだった。

黒板にかかれた座席と番号を確認すれば、今の席から一つ横に移るだけ。
移動が楽でよかったと、大移動が始まった教室で私は机と椅子を一つだけずらした。

そして元々私の机があった場所にガタンと大きな音がして机が置かれたのを見て、私は少しだけ顔をあげる。
机にひっかけていた椅子を降ろす岩泉くんと目が合って、私は一瞬呼吸を忘れてしまった。

「お。隣、鈴木か。よろしくな。」
『っよ、ろしくお願いしま、す。』
「おぅ。っつかむしろ俺のが勉強とか絶対わかんねーから、マジ色々と頼むわ。」

ニッと笑った笑顔は確かに私に向けられていて。
こんなラッキーな事があっていいのかと思いつつも、バクバクと早鐘を打つ自分の心臓が一体いつまでもつのかいささか不安にすらなる。
それでも前髪の下で口元が緩むのは止められなくて幸せに浸っていたのもつかの間、その岩泉くんの後ろにも机が運ばれたのが音でわかった。

「ヤッホー岩ちゃん〜。」
「ゲッ。後ろお前かよ、及川。」
『(げっ!)』
「…今二人からなんか聞こえた気がするけど…。鈴木ちゃんもよろしくねー。」

口には出していないはずの感情を読み取られて、返事もできずに向けていた目線を慌てて前へ送る。
ラッキーなのかアンラッキーなのか…。きっと他の子から見たら超ラッキーなんだと思うけれど。

残り物のくじには確かに福があったけど、それだけじゃないなんて人生甘くない。

せめて及川くんが前だったらよかった。後ろから見られるのはどうにも落ち着かない。

「?及川。お前いつから鈴木の事そんな風に呼ぶようになったんだよ。」
「んー?ついこないだから仲良しさんだから?結構鈴木ちゃん面白くてさー。」

岩泉くんに対してそんな返事を返す及川くんに驚いて思わずもう一度目線だけ振り向いてみたら、ばっちり目が合ってニコッと微笑を向けられる。

「−楽しい席になりそうだね。」
『っ!』


あぁ、なんという天国と地獄。

−及川くんの機嫌がよくなればよくなるほど、私は何だか冷や汗をかくのだ。



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