長編、企画 | ナノ

【番外】東京の王子様


※テニプリとの混合夢になります。苦手な方はご遠慮ください。


文化祭も無事終わり、とうとうカレンダーは10月に入った。
今月末にはいよいよ春高代表決定戦があるため、皆の練習にも気合いが入っている。それなのに…。

(んもうお父さんのバカ…なんで私が…。)

明日から東京遠征(今回は生川だから神奈川だが)だが、跳子は金曜日の授業が終わると同時に家庭の事情で部活を休ませてもらって先に東京に来ていた。
そのまま予約していた美容院に駆け込み、支度を整える。
普段はあまり出ないが、今回ははずせないパーティーに出席しなくてはならないからだ。

そもそも父の仕事関係で跳子がこういうことに出席することはまずない。
しかし今回は"父の代理"というわけでもなく、どちらかと言うと"父の尻拭い"といった感じだ。
パーティーに出席の返信をしたのは父であったが、なぜか跳子宛に招待状が届いていた。
父が自分宛だと勘違いをして返信をしてしまったのだ。


(跡部…ケンゴくんだっけ?…8歳の誕生日って聞いたけど…。)

準備が整ってタクシーで会場に向かう途中、パーティーの主賓について思い出す。
それにしては父親が変な事を言っていた。
出席の受付さえしたら主賓に挨拶などせずにすぐに帰りなさいとか何とか、ゴニョゴニョと言葉を濁していたのだ。

(…といったって、そういうわけにはいかないでしょう。いくら8歳の子だって招待の御礼とお祝いの言葉くらい…。)

通常主賓へ招待の御礼の挨拶くらいはするのが普通だ。
ただでさえ学校が終わってから来ているので、開催時間に遅れているのだ。
といっても気が重いのは確かだ。


会場について跳子は驚く。8歳の子の誕生日パーティーの割にはすごいところだ。
入ってみるとそこに居るのはキレイなパーティードレスに身を包む、跳子と同年代から少し上くらいの女の人ばかりだ。
疑問に思いながらもとりあえず受付をすませると、ドリンクだけいただいて隅っこの方で周囲を眺める。
聞いていた通り、あまり格式の高い本格的なものではなかったので安心はしたが、主賓に挨拶をしたらやはりすぐに退場させてもらおうと思った。

姿勢のいい男性に勧められたアペタイザーを一つだけお皿にとって会場の前方を見つめる。

(…う〜ん。それらしき小さい子が見当たらないなぁ…。)

ふっと跳子が小さくため息をついた時、突然見知らぬ青年に声をかけられた。

「オイ。そこのお前。壁の花なんて情けねーじゃねーの?俺様が踊ってやる。」
『えっ私…ですか??』
「名前は?」
『え、あ、鈴木跳子です。』
「跳子。来いよ。」

勢いに戸惑う跳子を半ば無理矢理フロアの中央に連れていき、見事なリードで跳子の腰をとる。
その瞬間に会場がザワついたが、状況に慌てる跳子は気付かない。
流れる音楽はワルツだ。
パーティーに参加すること自体久しぶりだったが、なんとか身体が覚えていそうだ。

「…なかなかやるじゃねーの?」

不敵に笑った顔が恐ろしく端正でキレイな男だった。


その男−跡部景吾は踊りながら目の前で足を懸命に動かす跳子についての情報を頭でまとめる。

(鈴木…。あの食えないタヌキの孫か…。確か高校生になったばかりだったか…?取引はあるが規模拡大や傘下に入るのには応じないイメージだから、出席してきたのは意外だと聞いたが…。)

「…随分とつまんなそうにしてたな。あぁん?」
『えっ?いや、そういうわけじゃないんですが、知らない方ばかりだったので…。失礼しました。』

踊りながら話しかけられ、跳子が申し訳なさそうに答える。
いくつか会話をはさんでいて、ふと跡部が気付いたことを口にした。

「…お前、今日が何のためのパーティーか知らないのか?」
『?跡部家の息子さんの誕生日のお祝い、ですよね?』
「それはそうだが…。」

表向きの理由はそれだが、周知の裏の目的は跡部家の嫁候補探しだった。
そのため、取引先や親戚でそれに相応しく尚且つ希望する候補者に招待状が送られているはずだ。
とは言っても跡部自身には興味もなかったのだが、周囲はそれを許してくれず集まってくるわ急かしてくるわで息をつくこともできなかった。
そこで、同じように興味のなさそうに立っていた跳子に声をかけたのだ。

(知らないフリで気を引こうとしてるのか…?しかしそんな強かなタイプには見えねェな。)

少し興味がそそられた跡部は、曲が終わっても跳子を離そうとはしない。
しかし跳子は心ここにあらずと言った感じで考え事をしているように見える。

「何をそんなにソワソワしてる?」
『あ、失礼しました。その…部活が気になって。県の代表選が間近なんです。』
「!…部活は何をしてるんだ?」

跳子は何故か相手の目の色が変わったように感じた。

『…?バレーボール部です。といっても私はマネージャーなんですが。』
「強いのか?」
『全国優勝を目指してますよ。…ふふっ。なんだか部活の話になったらキラキラしてますね。』
「俺も部活をやってるんでな。テニスだ。」
『…えっ、あの、失礼ですが…?』

濁した言葉尻を想定して、跡部が少し眉根を顰める。

「…(今日で)18歳だ。」
『えぇぇっ!?』

もっと年上だと思っていた跳子が少し大きな声を出してから、慌てて抑える。
お詫びの言葉のために相手に呼びかけようとして、そういえば名前を知らないことに気付いた。

『あの…申し訳ありませんが、私もお名前をお伺いしてもよろしいですか?』
「…景吾、だ。」
『ケイゴさん。えっと苗字は…』
「景吾でいい。畏まった話し方もしなくていい。」

言いきられてしまえばそう呼ぶしかない。
敬語をやめることはできないが、同年代と聞いて多少跳子の話し方がくだけたものになる。

『私ダンスなんて久しぶりです。景吾さんのリードがなければきっとできませんでしたよ。ありがとうございます。それにしても大きなパーティーですね。』
「そうなのか。跡部家のパーティーの中ではかなり小さい方だと思うが。」
『8歳のお誕生日と聞いたので、もっとこじんまりしたホームパーティーかと思ってて…。』
「は…!?8…?」

跡部が驚いた顔で跳子を見る。
どうやら跡部が誰か気付いていないのは、跳子が主賓の年齢を勘違いしているからだと思い付く。
その跳子はそのまま話を続けた。

『一応気持ち程度のプレゼントも持ってきたんですけど。…といっても8歳の子へのプレゼントって何がいいかわからなくてボールペンとお菓子なんですけど。』
「ブッ!!」

跡部が跳子の言葉を聞いて吹き出し、楽しそうに大きな声で笑った。
お腹を抱えんばかりの珍しい跡部の姿に、周囲でこちらを気にしていた人たちも驚いた顔をする。

(俺様へのプレゼントが、ボールペンだと!?)

暫く大声で笑い続ける跡部を、不思議そうな顔で見つめる跳子。
思わず滲んだ涙を拭きながら跡部が跳子を見た。

「くくくっ。…俺様から渡しておいてやるよ。跡部家の息子にな。」
『いいんですか?ありがとうございます。』
「いや、こっちこそありがとな。」
『??』

何がそんなにおもしろかったのかまだ肩を震わせる跡部に「景吾様」と近寄ってきた男がこそりと耳打ちする。

「チッ…。わかったすぐに行く。」

結局跡部に(8歳の)主賓は出てこないことを聞き、プレゼントを預けた跳子は会場を後にすることにする。
何か用があるだろう跡部に断りを入れるが、出口までエスコートして見送ってくれた。

「跳子、またな。…そのうち会いに行ってやるよ。」

お礼を言ってタクシーに乗り込む跳子に、跡部が声をかける。
最後にもう一度楽しそうに笑う跡部の顔が、年相応に見えたような気がした。


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(オマケ)

「なんや跡部。珍しく踊っとったやん。…何持っとるん?」
「俺様へのプレゼントだとよ。」

手にしていた跳子からのプレゼントを見て、忍足がぶはっと吹き出す。
そのまま面白そうにそのペンとそのあたりにあった紙を手にした。

「そんなんネタやろ?こんな風に連絡先でも教えてほしかったんちゃうん?」
「あっ忍足!てめぇ勝手に使うんじゃねぇ!」

サラサラっと紙にペンを走らせた忍足が、何故か驚いた顔を見せた。

「…何やこのペン、書きやすっ。もらってええ?」
「…ダメだ。」

忍足から奪い返したペンを今度は跡部が走らせる。

(なるほどな…。)

ペンに記載されていたのは彼女の父親の会社の名前。

−小さな会社だが、技術は確かだな。…そりゃ親父が関係を作りたがるわけだ。

忍足がブーイングをするのをスルーして、跡部が一緒に入ってたマドレーヌを口にしながら面白そうに笑った。



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