●●●真の姿
部活の自主練習前のひととき。
今日は実習室を借りられたので、清水と谷地と共に握ったおにぎりを差し入れることができた。
「へぇ、じゃあ鈴木たちのクラスはカフェに決定か。」
『そうなんです。すぐに申請が通ったって言ってましたし。』
大きな口でおにぎりを頬張る澤村に、紙コップにいれたお茶を手渡しながら跳子が答える。
「よかったな。で…鈴木は何をするんだ?」
『当日のカフェで出す調理担当になりました。一応メニューを考えたりを私がメインでする代わりに、放課後の買い出しとかは他の子がやってくれることになって。…澤村先輩の助言のおかげです。』
本当に感謝しているような跳子の笑顔に、ちょっと私欲を交えてしまった澤村の胸がチクリと痛む。
『月島くんと山口くんも当日のデザート担当になってましたし…。』
「…それ、逆に大丈夫か?」
澤村の脳裏に、難癖をつけながらケーキだけを全て平らげていく月島が浮かんだ。
『大丈夫ですよ!これが日向くんや影山くんとかだったらちょっと不安でしたけど…。』
大きな声に跳子が視線を向けてみれば、その二人がおにぎりを取り合ってケンカをする姿が目に入る。
同じ状態に気付いた澤村がため息をつきながら止めに向かった。
(…先輩のクラスは何やるのか聞きそびれちゃったな…。)
日向と影山の首根っこをつかむ澤村の背中を見て小さく跳子が苦笑しながら、帰り道に聞いてみようと思った。
ーその頃1年4組の教室では、文化祭実行委員のゆかが、文化祭の接客担当の子たちと話し合っていた。
その中にはちえの姿もある。
「随分とすんなり申請通ったけど、本当に普通のカフェやるの?ゆかちゃんの事だから絶対にメイドカフェとかコスプレカフェとか言うと思った!」
「わかるー!でもやっぱりその辺は希望クラス多いし、申請通るかわからないって聞いたよー。それに通った後も結構先生がチェックしに来るって!」
「うわー、やだー!」
「しかもコネとかないと衣装の用意も厳しくない?」
そんな楽しそうに話す皆の話を黙って聞いているゆかに、ちえは何か不穏な物を感じる。
「…ゆか、黙ってないでそろそろ白状しなさいよ。なんか企んでるでしょ。」
その言葉にゆかがフッフッフと悪役のような笑い方をする。
「さすがちえさん!皆甘いよー!私も来場者もただのカフェで満足するわけないでしょうー!」
(((やっぱり…!)))
皆ゆかの性格はわかっていたので覚悟はしていたから驚きはしない。
でも内容については全く検討がつかなかった。
「これを見よ!」
「「??」」
机にバンと置かれたのは、生徒会に出した企画申請書のようだ。
生徒会と先生の認め印もバッチリ入っているのが見える。
一つの机を囲むようにして皆で覗けば、企画名の欄に"シャツカフェ"と書いてあった。
「シャツ、カフェ…?」
「なにそれ?」
「衣装項目に、"女子は全員白いYシャツ"って書いてあるけど。」
「え?それ普通じゃん。制服ってこと?」
飛び交う皆の疑問の声に満足気に頷くゆかは、まだまだ悪い顔のままだ。
「…皆、シャツカフェと聞いて浮かぶのは、なんだかシュッとした小綺麗なカフェじゃない?」
まぁ…とそれぞれが顔を見合わせて頷く。
「フフフッ。そこがミソなのです!それで私は生徒会も先生を欺きました!シャツカフェ、その真の姿は…!」
そう言ってゆかがペンを手に取り、企画名の頭に一文字追加する。
「…コレです!」
「「…ゲッ!!」」
追加されたのは"彼"の文字。
悪い予感しかしないそのタイトルにちえが頭を抱える。
1年4組の文化祭でやるその真の内容は、"彼シャツカフェ"だった。
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