長編、企画 | ナノ

秋の祭典



新学期が始まった。
教室を見回してみれば、久しぶりに会う皆の笑顔が日に焼けているように見える。
それは跳子も例外ではない。
室内競技のマネージャーとは言っても、ロードワークや買い出し・洗濯など、日差しの下でやる作業も案外多いのだ。

始業式を終えた後の一時間目はHRだった。
授業とは違う空気に、皆の夏休み気分はまだまだ抜けない。
そんな中、担任と交代したゆかが皆の前に立った。

「さて、皆さん!お久しぶりです!夏休みも終わってとうとう新学期が始まりました!」

どことなくテンションの高いゆかを、皆がキョトンとした顔で見つめる。
それぞれのおしゃべりはピタリと止んだが、跳子の隣の月島は、興味がないとばかりにあくびをしていた。

「なぜ私が前に立っているかと言うと…そう!文化祭実行委員だからです!来月末の9月29日、30日は文化祭ですよ!」

おぉと小さくどよめきが起こる。
そういえば1ヶ月ちょっとですぐに次のイベントがあることを思い出したようだ。

「なので、この時間を使って文化祭で何をするか決めたいと思います!意見がある方!」

ものすごいイキイキした顔のゆかに、ちえが思わず「嫌な予感がする…」と呟いた。



「…というわけで、うちのクラスは私が提案したカフェに決まりました〜!ハイッ!」

ゆかの合図につられ、パチパチと拍手が起きる。
提案したというか押し切ったというか…、まぁ他にこれといった大きな希望が出なかったのだが。
ただし何カフェかまでは言われなかった。
これから決めるというよりも、次回発表されるということなので決まってはいるらしい。

それでもこのクラスは(一部を除けば)ノリのいい方だからあまり心配はしていない。
跳子も何だか気分が高揚してくるのを感じた。

「生徒会に希望申請を通しますが、多分大丈夫なので明日には早速担当を決めます。皆希望を決めておいてねー。」

授業で使わない後ろの黒板にざっくりとした担当とだいたいの人数を書きだす。
すでに皆それぞれ「どーするー?」なんて話ながら、何となく楽しそうだ。

席にもどってきたゆかに跳子とちえが話しかけた。

『お疲れ様、ゆかちゃん!すっごいてきぱきしてたね〜。』
「というかあんたあの手際のよさ…初めから意見押し通すつもりだったでしょ。」

にししと笑うゆかにちえが「やっぱり…」と呆れたような声を出す。

『あ、でも私大会が近いからあまり放課後とか手伝えないんだけど…。』
「わかってるって!一応他にも何人かそういう子もいるし、調整はするつもり。」
『じゃあ当日お料理とか頑張るよ!』
「えっ?跳子、まさか裏方希望なの?」
『え?うん…そのつもりだけど…?』

ゆかが驚く理由がわからず、跳子は首を傾げる。

「だって、カフェだよ!?ぜひ跳子さんとちえさんには接客をしてもらって集客数をですね…!」
『??』
「あんた友達に何させる気よ…。普通のカフェじゃないの?」

急に揉み手を始めたゆかに、ちえが冷たい視線を向けはじめる。
その視線から目を逸らしているゆかに、跳子が不思議そうに答えた。

『表に出たい子はたくさんいるだろうし、別にいいかなって…。それに澤村先輩が助言をくれたの。劇とかの出し物だったら役の練習にあまり参加できないし、カフェとかだったら料理が得意なんだから、どちらにしても裏方がいいんじゃないかって。』

照れたように言う跳子を見て、何故かちえが大きな声で笑い出し、反対にゆかが苦い顔をする。

(澤村先輩、さすがだわ…!)
(なるべく跳子を表に出さない気ね…!)


そんな話を聞いていたのか、月島が隣でヘッドフォンを片手にしながら気怠そうにゆかを見る。

「まぁ僕も同じ理由であんま手伝えないんで。裏方で。」

まぁ当日もあまりヤル気ないんだけど…と月島が続けて呟く。
それが聞こえたゆかが怒りだすが、月島にはどうやら響かないようだ。


烏野高校文化祭まであと、40日。



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