三.欲望に忠実な男

「ここが私の部屋です。ちょっと散らかってますが…」
「散らかってるというか、物が多いですね」
「机の辺りは危険な薬品もあるので気を付けて下さいね」
「はい。…あ、余ってる布団とかありますか?」

鬼灯は、こんな状況で何故彼女は既に順応しかかっているのだろうと不思議に思いつつ、布団のことを思い出す。

「たしか倉庫にあったと…」
「じゃあ私床に布団敷いて寝ていいですか?」
「やっぱり無かったです」

口をついて出たのはとんでもない出任せだった。
鬼灯のベッドは彼の体格に合わせて大きめなものの、シングルサイズである。それは名前の目から見ても明らかで、どう考えても鬼灯と名前の二人で寝るのには狭すぎる。
第一に、二人は偽りの夫婦なのだ。

「…今倉庫にって言いかけてましたよね」
「やっぱり無いです。記憶違いでした、すみません」

名前のこめかみにはよく見れば薄く血管が浮かんでいる。鬼灯は素知らぬフリで自分のベッドを整え始めた。

「今日は我慢して一緒に寝ましょうか。あ、私はその辺の青い鬼と違って結構年食ってるので“そういう事”はご心配いりませんよ」
「聞いても無いのに言ってくるところが何か信用できません」

つんとそっぽを向く名前。
その表情に鬼灯の嗜虐心が蝋燭の炎のように揺らめき立った。

「嫌なんですか?新婚なのに…」
「それは私を保護してくれるための口実でしょ」
「外で怪しまれない為にもある程度のコミュニケーションはあったほうが良いと思うのです」
「…屁理屈じゃないですか」

確かにお嫁さんのフリでいいと鬼灯は言った。
しかし一目惚れしたのは否定していない。

「………努力します」
「本気で嫌なら蹴り落としてもらって構いませんよ」

鬼灯はそう言ってから、平然と言ってのけた。

「まあ落ちる気なんて毛頭ありませんけどね」
「もうやだこの変態鬼…」
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