長い夜と、君を見た月
師走のある日、夜中に目が覚めた。
私の家は外に厠があるので、この寒空の下、少し歩かなければならない。
「うわああさっむい」
歯をガチガチ鳴らしながら、用を足す。
一応着てきた半纏は結局何の役にも立たなかった。ふと何気なく空を見上げると、綺麗なまんまるい月の周りに満天の星達がちりばめられていた。しかもちょうど満月の部分には薄く細長い雲がかかりそうになっていて、とても趣がある。
「わあ…」
いつの間にか寒さも忘れて見入っていると、月に違和感を感じた。何か黒い影のようなものが月を横切ってゆく。
あまり自慢にはならないが、私は人より幾分目が良い。ぐっと目を凝らしてその影の見える一点を見つめる。
「……獣!?」
向こう側から月の光に照らされているからはっきりとした姿は分からないけど。それは確かに優雅に軽やかに空を飛んでいた。
「………ってことがあったんですよね。生きてた頃なんですけど」
「神獣か妖怪の類でしょう」
「あー…そうかーそうですよねー」
「僕もね、その頃はよく日本上空飛んだりしてたよ。今は戦闘機で撃ち落とされるかもしんないから現世には滅多に飛んで行かないけど。いやー、あの頃の日本の女の子の着物、すごい良かったなぁ」
「そうですか…」
白澤様の発言に適当に返事をすると、手慣れた動きで肩に手が回される。
「ところで名前ちゃん今から暇?良かったら一緒にご飯行かない?」
「行きません今日夜勤なんで…。何で神獣ってこんなのばっかなんだろ……」
「(知らぬが花…)さあ………」
title:31D
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