缶コーヒーで苦すぎる間接キス
朝、勤め先の衆合地獄へ行く前に同じ自販機に寄るのが日課。
百二十円入れて、ブラックコーヒーのボタンをポチッとな(ここはいつも某ボ●ッキーを心の中でイメージしている。少し空しい)。
自販機の横のベンチに座ってすぐ隣に金棒をたてかけてブラックコーヒーを一気飲み。
はっきり言ってブラックコーヒーは嫌いだけど仕事を頑張るにはこれを飲むのが一番なんだな、何故か。
半分くらいまで飲んだところで誰か来た。
「鬼灯様、おはようございます」
「ああ…おはようございます」
ああ、これは三日徹夜の顔だ。
さらさらストレートもちょっとボサボサ、目の下のクマもひどいどす黒さだ。
「あれ…?」
その時、鬼灯様の眉間のしわが一層深くなった。
「どうされたんですか?」
「ブラックコーヒーがありません…」
「えっ」
確かに売り切れの文字が光っている。
ますます不機嫌になる鬼灯様。私も悪い意味で心拍数が上がる。最後の一本を買ってしまったのは私に違いないからだ。
「仕方ない…諦めますか」
「あっ、あのっ」
持っていた缶コーヒーを目の前に突き出す。
「良かったらどうぞっ」
鬼灯様は切れ長の目を丸くした。
「いえ、でもそれ」
「わっ私、もうすぐ仕事行きますし!申し訳ありませんですが飲み終わったら捨てていただいてもよろしいですか!?」
「ああ、ハイ。それくらいお安い御用です。」
「そ、それでは失礼します!!」
慌てた私は金棒を引っ掴んで足早に衆合地獄へ向かった。
「………」
コレは、飲んでしまって良いんだろうか。後で彼女はこのことに気付いてしまわないだろうか。
少し後ろめたさを覚えながら口をつけ、一息に飲み干した。
「……苦ッ」
出勤後。
閻魔大王が私を見て不思議そうに話しかけてきた。
「アレ、鬼灯くんご機嫌だね?」
「うっせ、アホ」
「もうなんかほんとにごめんなさい…」
title:確かに恋だった
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