回想


生まれた時から元来頭でっかちの家で生まれ育った私はやはり先祖と同じ道を歩むしかないようで幼い頃からお前は官吏として国に尽くすのだと言い聞かせられて生きてきた。

宮中というものはどうやら、自分が思っていたよりもずっと理不尽で道理の通らない場所だった。
実力で科選を通過したのにも関わらず、年若いから、女であるからという理由でよく年上の文官たちになじられたものだった。

10年前の自分は官吏として大人の中に混じり仕事をすることで大人になったようなつもりでいたのだけれどやっぱり中身は子供のままだった。
下らない陰口や謗りになど耳を貸さないつもりでいたのに、いくら幼くても聞き流せない言葉の一つや二つはあった。

どうして自分は他人から見て申し分のない教養があると認められて此処に居る筈なのにこんなにも居場所が無いのだろう?

そんな時に宮中に仕える全官吏に言い渡されたのが現皇帝の第二子である練紅明様の側近兼専属文官の選定の為の大会の開催あった。

馬鹿な官吏の挑発に乗ってしまった私はこの大会に出ることになってしまって、そのことがそもそもの間違いであった気がしてならない。

大会の内容はそもそもが色々と何か間違えている気がしてならなかった。
何故なら選定に用いる種目は何故か武闘なのだ。一ヶ所に集められた候補者たちが制限時間無いに潰しあい残った者を紅明様本人が直々に選ぶという方式で投げやり感が半端ない。
何故に側近兼専属文官を決める大会で闘わねばならないのか?

そんな感じで始まった天下一武闘会で誰が私のようなちんちくりんの餓鬼が生き残る事が出来ると思っただろう?

種目が解った途端に血相を変えて棄権しろと説得してきた黒惇様はおろか腹を抱えて笑っていた青秀様ですら予想していなかっただろう。

この大会を期に一気に出世を計ろうとした文官や歴戦の猛者である武官に何故私が勝てたかというと、自分の身体が小さくて誰も気付いてくれなかった為、大人同士が勝手に自滅してくれたのだ。

一生のなかでこんなにも自分の小柄さに感謝することは後にも先にもこの時だけであろうと今でも思う。

滅茶苦茶な大乱闘のあと、生き残った官吏たちは皆身体の至る所に古傷を持つムキムキマッチョのおっさんだらけでその中に混ざる自分はさぞかし場違いであっただろうと思う。

謁見室にて最終的な選定が行われる時には紅明様の他に見物に来た紅炎様と紅覇様も居た。

十人ほどの候補者はそれぞれ番号札を持たされて、紅明様たちの前に一列に並んで立たされる。

私の番号は四番だった。

紅明様は正直側近とかに興味が無かったらしくぼんやりと上の空のような様子で従者の方が、どの者がよろしいですかと訪ねるまで呆けていた。

私はこの時安心しきったいたのだ。

まず自分がこのムキムキのおっさんたちを差し置いて側近になるはずは無いのだと、あのむかつく文官たちが生き残れなかった大会で最後まで残ったのだからもう嫌味を言われることもないだろう。

「え?、ああ。では四番で。」

「はい?」

この時、その場にいた人達の心は一つだった筈だ。
紅炎様や紅覇様までも紅明様と私を交互に二度見三度見している。

「で、では。紅明様の側近はその者に。これにて選定は終了する!」

従者の方も一度放心状態だったが気を取り直してその場を締めるとそこで大会は終了し、私は文官どころか武官まで敵にまわすこととなったのであった。






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