クソッタレ神官


釈然としないまま昼を迎え小休止に入ると、私は特にすることもなくぼんやりと中庭を眺めていた。
手入れの行き届いた庭には駒鳥たちが戯れ、もうすぐ冬も終わるのか草木が芽を出し始めていた。

気分転換に外の空気でも吸うのが良いだろうと思い庭に出ると冷たい空気に鼻がツンとした。

中庭の池の中では鯉が盛んに泳いでいて餌でも持ってくれば良かったと思いながらじっと池の底を覗く。

「なまえじゃねぇか。何してんだよこんなとこで。紅明は?」

池の水面には私を見下ろす神官、ジュダル様が映っていた。

「神官様こそこんなところで何を?そんな格好で寒くないんですか?」

「暇潰し。紅炎は構ってくんねぇしよ。」

神官様はあー、やってらんねぇ。と辟易したように呟くと地面に腰を下ろした。


「紅明様も今頃紅炎様と一緒に会談中ですよ。」

「へぇー、お前は居なくて良いのかよ?」

「それがですねぇ、聞いてくださいよ。」

我が国のマギである神官様に魔法の稽古をつけてもらいながら、事の顛末を話すと神官様は大して興味も無かったのかふぅん。と相槌を打った。

「まあ、あの紅炎とその家臣が居んならお前なんて必要無ぇだろうなぁ。」

「そうなんですけどね。」

「お前さぁ、折角強いんだから紅明の側近なんかやってないで武官になって戦に出ればいんじゃねぇか?戦争に出て手柄上げた方が良いだろ。俺がダンジョンに連れてって金属器使いにしてやるよ。」

この神官様はどうして戦事となると、こんなにやる気を出すのだろう?新しい玩具を見つけた子供のように瞳を輝かせる彼の申し出は申し訳無いけどお断りさせていただこう。

「いえ、結構です。」

「なんだよ、つまんねぇな。でも、まあ魔導士とジンの金属器ってのは相性が悪ぃしな。」

「そうなんですか。」

「ああ、あんまり良くねぇな。紅明が眷属器をお前にやらねぇのもそのせいかも知れねぇな。」

「眷属器?」

「ああ、金属器使いの傍にいる奴は眷族になりやすいんだよ。紅炎の家臣の奴等が何であんな姿してるか知ってるか?」

紅炎様の家臣の青秀様や炎彰様、黒惇様は明らかに人ではない。けれど今まで彼らがどうしてあのような力を手にいれたのかなど考えたことがなかった。

「そういう種族なのでは?」

この国には沢山の種族が混在しているし、彼らのような人たちがいても不思議ではないだろう。

「あれはなぁ、ジンに自分自身を捧げたんだよ。眷族と同化してな。ああ、なると二度と人間には戻れないんだぜ。」

「そう、なんですか。」

「お前の場合は剣術もからっきしだし、紅明も眷族にするには頼り無いって思ったのかもなぁ。」

「失礼ですね。こう見えてもある程度の武官くらいなら軽くあしらえますよ。」

確かにそうなのかもしれないと思った。大事な場面でいつも遠ざけられてしまうのは私が頼り無いからかもしれない。彼の眷族になれないのも。

「ま、その気になったらいつでも来いよ。」

そういうと神官様はふよふよと絨毯に乗って何処かに飛んでいってしまった。



その数時間後、謁見室では隣国の王の従者が不敬を働いたとのことで処刑された。元々煌に従順でない国であったから此方としては好都合だったのかもしれない。どんなに些細な理由でも良い、戦争の種などいくらでもあるのだから。
近いうちにまた戦争が始まるのだろう。




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