魔導士とときめきとあれこれ


結局のところ、部屋の掃除は次の日に持ち越しになり紅明様はあの後別の空き部屋で眠ることになった。

枕が変わったら眠れない人間だと思っていたのだが意外とそうでもないらしく次の日には身体の調子は良さそうだった。

「おはようございます。今日は早いうちに明日の軍議の準備をして、それからお部屋を片しましょうか。」

紅明様の仮部屋から出てきた女官は随分とげっそりしていて、一目で紅明様を起こすのは大変だったのだろうと理解したが、どうやら紅明様も慣れない人間に身支度を整えられたせいか少し疲れた様子だった。

「すみません。やはり私が起こすべきでしたね?」

「いいえ、構いませんよ。早く終わらせましょう…。」

軍議の準備は床通りなく終わり怖いくらいにすんなりと仕事が進んだ為私はとても上機嫌だった。

それから直ぐに部屋の片付けに入ることになり、凄まじい部屋の惨状に現実を突き付けられ気分が急降下したのは言うまでも無いことであろう。

「それでは彼方の書はあの棚に、それは此方の棚の右から二番目に…。」

「はいはい。」

どうにも自分の持ち物には拘りのあるらしい紅明様は書物の位置も全て頭の中にある通りにないと嫌らしく、他人に私物を触られるのはとても困ると言っていた。側近である私も最初は嫌がられたが今はなんとなく許されている。

書物を一度に運んだり、部屋の端から端へ移動するのは骨が折れるし私は兎も角紅明様にはそんな体力無いのでこんな時は魔法を使う。

私は沢山の書物を頭上でふよふよと漂わせ、紅明様の指示した場所の棚に差し込む。
あちこち移動しなくて良いので作業効率が良いのだが、元々物を持ち上げたりする魔法は得意ではないのでとても精神力を使う。

書物を全て片付け終わる頃には日が暮れていて、先日まで過ごしたの故郷に流れる時間と禁城での時間の速さは全然違うような気がした。

「終わりましたね、お疲れ様です。お茶でも如何ですか?」

「ありがとうございます。」

いつの間にか部屋の卓上には湯呑みが置かれており、湯気が立ち上っていた。
一人掛けの椅子には西洋風の装飾が施されており、窓から射し込む光できらびやかに光っていた。

「それは貴女が居ない間遠征から帰ってきた兄上が置いていった物ですよ。この部屋には椅子が一つしか在りませんでしたから。」

「え、私専用ですか?」

「いえ、別にそういうわけでもないと思いますよ。客人用ですし。」

「何なんですか、もう、上げて落とさないで下さいよ。」

あまりにも上げて落とされた感があったので、ちょっとときめいちゃったじゃないですか、も〜!と言うと紅明様に心底気持ち悪そうな顔をされた。

「良いじゃありませんか。実質貴女専用みたいな物じゃないですか。」

「紅明様お友達居ないですもんね。」

「黙りなさい。」

「まあまあ、お土産話でもしませんか?面白い詩集を見つけたんですよ。」

「話をすり替えるんじゃありません。まあ、聞いてあげましょう。して、その詩集は?」

お、食いついてきた。
側近になってからの楽しみは専ら紅明様と語り合うことで、むしろそれしか楽しみがない。紅明様は軍師であるだけあって教養も深いのでそこら辺の脳味噌筋肉の武官共には通じない話もできる。

私は若くして側近になったせいか周りの文官たちからやっかみを買うことも珍しくなく知性的な話を出来る時間はとても貴重なものだった。


それから私と紅明様は詩の解釈についての論議が白熱し夜が明けるまで語り合ったのせいで寝不足のまま軍議に臨む羽目になった。







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