主殿と涎


面倒臭いくらい繊細な26歳を、私が片付けを手伝います。と、どうにか説得し風呂に入らせる事に成功した私は寝不足の彼の為に寝台の周りを綺麗に片付けて、風呂上がりの彼を無理矢理寝かし付けた。

時刻は丁度昼前で自分も昼食を摂りながら、今後の予定について考えた。

紅明様の側近になってから約10年にもなり、私も紅明様ももう良い歳になるが彼の駄目人間っぷりは嫁に入った后たちもドン引きするほどであり世継ぎに恵まれるのはまだ後になりそうである。
そんな紅明様は生活面に関しては本当に全て私に頼りきりで最早宮中における私の立ち位置は側近と言うよりも介護人である。

昼食後紅明様の部屋に戻ると紅明様はスヨスヨと寝息をたて気持ち良さそうに寝ていた。
寝台の側に置いてある椅子に座り寝顔を眺めるとだんだん良からぬ考えが浮かんできた。

この男…!私の気も知らないで!!と帰宅早々働かされたことによる若干の憤りも含めて仕返しとして顔に落書きでもしてやろうかと思ったが流石に不敬罪で首を飛ばされそうなのでやめた。

紅明様が起きた時の為に着替えを寝台の側に置いておくと、籠の中の衣服から焚き染められた香の香りがほんのりと鼻を擽った。
甘い香りのそれは彼の弟君である紅覇様が選んだもので紅明様には少し不似合いな香りではあるが、紅覇様の選ぶ香はどれも良い香りで好きだ。

あまり、眠っていないせいか私もだんだんと眠たくなってきた。首が座らなくなり瞼が下がっていく感覚に抗えず私は瞳を閉じた。



ーなまえ、なまえ。ー

ああ、もう眠たい。未だもう少し寝かして下さい。

「こら、起きなさい不細工。」

「誰が不細工ですか。」

とても失礼な言葉に私の意識は一気に浮上した。どうやら私は紅明様の寝台に突っ伏して眠っていたようで、顔を上げると寝起きの紅明様が不機嫌そうに私を見下ろしていた。

「主を枕に居眠りとは全く良い度胸です。」

「あ、すんません。」

紅明様の布団にはくっきりと私の物と思われる涎の痕がピカピカと光っており、それを見た紅明様は、汚い……。とげんなりしたように呟いて部屋の外で控えていた女官に新しい布団取り替えるようにと告げた。





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