面倒臭い男

久方ぶりに纏まった休みを頂いたので故郷に帰ることにした。
仕事に穴を空けるのはかなり不安であったがたまには休みを良いだろうと言う主の言葉に甘えさせていただいて旅だったのが丁度一週間前のことだ。



休日を満喫したあと、我が国の都の中心にある宮廷禁城に入り兎も角も主に挨拶をせねばと思い彼の自室に向かうとざわざわと女官の慌てふためく声や文官たちの困り果てた話し声が聞こえた。

近づいていくと人の渦の中心はやはり主の部屋の前であり、薄々予想はしていたが溜め息が出た。

「ああ、なまえ様!戻られたのですね、良かった!」

「ええ、丁度今、戻ったところです。」

女官は顔を真っ青にして大変なのです。と私にすがりついた。

「紅明様が四日もお部屋から出て来ないのです。部屋の外から呼び掛けてもお返事が返ってきませんし、文官たちが何とか入ろうとしても何故か戸が開かないのです。もしかしたらもう、お亡くなりに……。」

「そんなことだろうと思いましたよ。大丈夫ですからもう少し下がっていてください。」

我が麗しの主殿がこのような騒ぎを起こすことは大して珍しいことでもない。
女官に集まった人たちに各々仕事に戻るようにと伝えるように頼むと、私は思い切り部屋の戸を蹴破った。

戸は凄まじい音と共に倒れ、空いた空間から書物が廊下に雪崩れ込んできた。
足の踏み場も無いような散らかった部屋を一歩一歩慎重に進んでいくと、これまた凄まじい様相の我が主、練紅明が居た。

「全く、少し目を離すとすぐこれだ。だから仕事に穴を空けたくなかったのに……。」

紅明様の後ろ姿は結わえた髪はボサボサの毛虫のようになり、羽織った着物は埃を被って汚ならしい。皇子とは思えない浮浪者のようになってしまっている。

「紅明様、紅明様!息してますか〜?生きてますか〜?」

「うぅ、頭が痛い。大きな声を出さないで下さい。」

「女官たちが四日も部屋から出てこないと真っ青になってましたよ。」

「四日?もうそんなに経っていたんですか。」

「どんだけ生活力無いんですか貴方は。戦で死ぬ前に部屋で餓死してしまうんじゃないですか?」

散乱した書物を見るとどうやら調べものをしていたようで集中しすぎて飯も風呂も寝ることすら忘れたのだろう。
目の下の酷い隈のせいでただでさえも良いとは言えない目付きが更に悪くなり、おまけに赤色の髪の毛が数日洗っていないせいでより深みを帯びた赤色になっていた。

「とにかく風呂に入ってください。その間に食事の用意と部屋も片付けさせます。」

「嫌です。顔も知らないような人間に勝手に部屋に入られるなんて、しかも私物を触られるなんて冗談じゃない。汚されてしまったら堪ったものじゃないですよ。」

紅明様は変なところで几帳面で神経質なところがあり気持ち悪い。

「いやいやいや、今の貴方の方がよっぽど汚いですから。」

「他人に部屋に入られるくらい此処にいます。そうです。その方が良い。風呂になんて誰が入るものですか。別に私が居なくとも兄上と紅覇さえ居れば良いでしょう。そうだ、私なんて必要ないんだ。」

紅明様は寝不足になるととてつもなく後ろ向きの性格になる。どうやら、自分の兄弟たちにそれとなく劣等感があるようだ。


ああ、もう、面倒臭い。本当に面倒臭い男だ。





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