物事には順序と言うものがある。そう、何かを成すとき大切なのは順番なのである。
「そこでですね、神官様。ただ紅明様にシンドリア行きをお願いしたところで却下されるのは目に見えています。」
「おう。」
「だからこそ、紅玉様と白龍様にお目通りしてからお二人のお力を借りようかと。」
「おう。」
聞いてねぇなこいつ。
なんだか最近神官様の様子もどうやらおかしい。
先日、あろうことか彼の前で泣き出すと言う失態を犯した時も少し変だった。何を話しても上の空なのである。
そして、いつもより少しばかり意地悪なのだ。
「興味ないんですね。」
「俺はあいつらと一緒に行かねぇからな。」
「あ、行かないんですか?てっきり神官様も船に乗って行くのかと。」
「おう、だから勝手にしな。」
それだけ言うと神官様はふよふよ絨毯に乗って何処かに消えてしまった。何処までも自由な人だ。
取り敢えず、一度シンドリアの王に会ったことがあるらしい紅玉様のところへ行ってみよう。
紅玉様にお目通りを願うため彼女の側近である夏黄文殿を訪ねると彼は気まずそうに首を振った。
「申し訳ありません。姫は今お加減が悪くて、とてもじゃないですがお目通りなど、」
紅玉様の部屋の入り口に張り付くように夏黄文殿は訪問者を断固拒否しているようだった。
「不調なのですか?それは大変。」
「ええ、」
「近い内にシンドリアへ行くと聞いたのですが。」
「それは、」
「夏黄文、誰か来ているの、?」
部屋の中から弱々しい声が聞こえてきて戸が小さく開くと隙間から大きな瞳が覗いていた。
「なまえ!久しぶりねぇ。」
「紅玉様!お身体の調子が悪いと聞きましたが、大丈夫ですか?一体何が、」
「それは…うぅ、何でもないわ。」
「え、ちょ、紅玉様?」
紅玉様は何やら心を痛めている様子で大きな瞳には涙が滲んでいて泣き腫らした瞼が赤くなっていて、時折ブツブツとシンドバットコロス、と謎の呪文が聞こえてくる。
身体の調子が悪いと言うよりは心の病気らしい。
「ごめんなさい。少し取り乱してしまったわぁ。」
「いえ、お気になさらず。」
紅玉様は泣き止むとにこりと笑いかけてくれる。とても愛らしい方だ。
「今日は折り入ってお願いがあって参りました。」
「お願い?」
「姫は近い内にシンドリアへ訪問なさるそうですね。私も連れていってほしいのです。」
「なまえがシンドリアに?」
「はい、理由は色々ありまして。」
「理由なんていいわよぉ。私、なまえと船の旅が出来るなんて嬉しいわ。」
「え、良いんですか?」
「勿論よ!」
「有難うございます!」
紅玉様は思ったよりも簡単に快諾してくれた。次は白龍様だ。
紅玉様にお礼を言って白龍様の許に向かう。彼はとても熱心な人でいつも中庭で鍛練しているので見つけやすい。
「白龍様!ご機嫌麗しゅう。」
「?貴女は?」
そういえば白龍様と私は初対面だったことを思いだし、慌てて自己紹介をすると彼は笑って自己紹介を返してくれた。
「鍛練中に申し訳ありません。初対面で早々厚かましいのは重々承知なのですが、どうか私のお願いを聞いてくださいませんか?」
ことの事情を話すと彼は思いの外簡単に協力してくれた。彼は紅明様の側近である私に興味があるようだ。
「なまえ殿は紅明殿の側近なんですね。」
「はい、あの、白龍様は何故私に敬語を?」
「貴女のことは以前から知っていました。幼いうちから科選を通過し、実力で皇太子側近まで登り詰めたと。ましてや、あの紅明殿の側近を一人で勤めあげるなど俺にはとても……。」
白龍様はどうやら私を買い被っているようだった。そんなキラキラした目で私を見ないでください。
「そんな、大したものでは。」
「大したことですよ。貴女が理解していないだけで。紅玉殿には夏黄文が居ますから俺の従者と言うことにしましょう。」
「有難うございます。」
「紅明殿には俺と紅玉殿からも言っておきましょう。」
そう、これが物事の順序なのだ。流石に自分の末の妹、更には義兄弟に説得されれば紅明様も却下できないだろう。ざまあみろ。
さあ、旅の準備をしようじゃないか。
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