家出紛いの留学

あの子は立派に役目を果たしたのだと喜ぶ両親を見てただぼんやりとこの人たちは頭がおかしいのだろうと思った。

それから頭に蛇がいる男の人が私のところに来てお前の兄貴には世話になった。と私の頭を撫でてくれた。

それが、私が宮廷に仕えようと思ったきっかけだ。

一日の仕事を終え、自室に戻ると神官様が私の寝台の上に寝そべっていた。

「人の部屋でなにやってんですか。」

「よお、なまえ。」

「よお、じゃないですよ。」

「お前に教えてやろうと思ってよ。紅炎が三日後にでも西に遠征に行くらしいぜ。今回は随分本腰入れてやるんだ。」

紅炎様は過去にも何回か遠征に向かっている。ここ最近では西に勢力を広げることが目的で沢山の国々を支配下に置いているけれど、西にはマグノシュタットやシンドリアがある。大きな戦にならなければ良いのだが、

それにしても初耳の話だ。

「はあ?そんな話聞いてませんでしたけど。」

「知ってる。紅覇も行くらしいぜ。紅明もな。」

「………そんなの、聞いてない………。」

頭を殴られた気分だ。紅明様からそんな話一言も聞かなかったし、そもそも側近の私連れていかない気なの?
私が何も言えないでいると神官様はほら、やっぱり頼りにされてねぇのかもな。なんて言って笑った。
意地の悪い人だ。
自分が頼りないことくらい自分が一番解ってる。

どうして認められた立ち位置にいる筈なのにこんなにあの人に遠いんだろう。

椅子に座り俯くと、手の甲の上に涙がポタポタと落ちた。

「ば、馬鹿!泣くなよ。」

私が泣き出すのは予想外だったらしく意地悪な神官様は目を見開いて焦りだした。

「悪ぃ、言い過ぎた。泣き止めよ、俺のせいみたいじゃねぇか。」

いやいや間違いなくあんたのせいだよ。十割あんたのせいだよ。
神官様は私の頭をぐしゃぐしゃと撫でながら頼むから泣き止んでくれとばつの悪そうな顔で懇願した。

「も、良いです。頼りない私のせいなんです。一緒にいても足手まといになるだけですし……。」

「そ、そうだ。俺とシンドリアに行こうぜ!近いうちに紅玉と白龍が行くんだ。」

神官様は私を一生懸命励ますためにそんな提案をした。

紅玉様は皇帝の末娘の姫様で、バルバッドの王と婚礼を結ぶ筈だったがバルバッドで反乱が起きた為に婚礼は破棄されてしまったのだ。

「い、行きます。知りません、紅明様なんて勝手にすれば良いんです。」

「おう。そうしろそうしろ。」

私が泣き止むと彼も安心したのか、また私の頭を撫でると、準備しとけよと言って部屋を出ていった。

外国に政治の勉強のために留学という名目なら誰にも文句は言われないだろう。
紅明様だって邪魔な私を遠ざけられて都合が良いはずだ。

明日はまず紅明様にお伺いをたてるのと、紅玉様と白龍様へご挨拶をしなければ。








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