主と后

「やめてください。それ以上近づかないでください。」

けたたましい出入り口の開閉音と共に美しい衣を纏った女性が紅明様の部屋から出てきた。
そんな光景を呆れながら見ていると、部屋から出てきた彼女は私を鋭く睨み付けて走り去っていくのだから本当に溜め息がこぼれる。

部屋の中でばつが悪そうに頭を掻いている紅明様は私の顔を見ると彼も溜め息を吐いた。

溜め息を吐きたいのは此方ですよと言えば、いつも夜中にすみませんと素直に謝られぐうの音も出なくなるのだからそこのところ彼はとても賢いと思う。

練家の男児はあまり女性というものに興味が無いらしい。
紅炎様の事はよく知らないが、紅覇様は女性が嫌いであるし紅明様もあまり得意ではないのは端から見ても明らかだ。

「香水の匂いが苦手で、なんなんでしょうね?あの甘苦い感じの香りは?くしゃみが出そうになるんですよ。」

「はあ、良い匂いだと思いますけどね。」

「臭いです。我慢できません。」

元々過敏症である紅明様にはそもそも白粉やら香水やらの匂いすら既に駄目らしく、毎回夜枷に現れる后たちを断固拒否しているのである。

なんでも蕁麻疹やら吹き出物やらが出来るらしいのでそれはもう病気か何かなのではと私は危惧している。

この夜枷は彼にとっては最早死活問題で自分の命がかかっているので彼の女性のあしらい方もあまり紳士的とは言えない。
それでも后たちに離縁を持ちかけられないのはやはり彼が第二皇子という地位にあるからであろう。

「そうは言いましても、後世に自分の子を残すのも皇族の義務ですから。」

私はしかしこの夜枷の日が来て、こうして何事もなく終わる度少しばかり安心している。
それは、意地が悪く自尊心ばかり高いあの后たちがとりつく島もなく紅明様に拒否される姿を見て悦に浸れるからだと思いたい。

「別に、なりたくてこの地位にいるわけではありませんから。」

貴女に愚痴ったところで仕方の無いことですが、と紅明様は付け加えると眠たそうに欠伸を噛み殺した。

「それに、好いてもいない女なんぞ抱いても仕方がないでしょう。」

「まあ、確かに。いるんですか?好きな人、」

紅明様は一瞬動きを止めると、寝台に入ってしまった。

「この話はこれでおしまいです。早く自分の部屋に戻りなさい。」

「なんですか、いきなり。気になるじゃないですか。」

「仮に居たとしても貴女のような不細工ではないから安心してください。」

そう言ったきり紅明様は眠ってしまったので私も自室に戻ることにした。全く一日の終わりまで失礼な男だ。

自室の窓の外を眺めると闇が深く星すらも見えなくて恐ろしい。

先程の会話を思い出し少しだけ彼と結婚した后たちを哀れむのと同時に心の何処かで想い人が居たことを気にしている自分が居た。


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