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桐青戦2






「これは?」
「へーき!」
「じゃあこれは?」
「へーき!」
「んー…これは?」
「へーき!」

三橋に怪我がないか一応調べてくれと頼まれた名前は、三橋を椅子に座らせて至るところをチェックしていた。だが、特に怪我もないようで、名前はそっと手を離す。

「もういいよ、スパイク履いて」
「本当に平気なのか?」

阿部が後ろから顔を出す。

「不安なら志賀先生にも見てもらう?」
「いや、お前が大丈夫って言うなら大丈夫なんだろうけど…ちょっと心配でな」
「三橋君は体が柔らかいみたいでね、どこにも支障はなさそうよ」
「なら…いいんだけど…」
「心配ない心配ない。あ、千代ちゃん耳温計…」
「あっ、はーい」

名前の言葉で篠岡は素早く体温を計った。そのあと選手がグラウンドへ出ていき、その隙に数字を見る。

「七度八分…ちょっと高いかも…」

「そうね、注意はしておきましょう」

監督の言葉に皆頷いた。



『二回の裏桐青高校の攻撃は、四番ショート、青木君』

青木毅彦。彼は唯一一年生で甲子園の土を踏んでいる。その上今年は八番から四番に上がってきたのだ。素材的には桐青一だろう。

そんな青木に三橋はスライダーから入り、シュートで三振。なかなかいい調子だ。

それを見ていた名前はベンチで短く息を漏らした。

「今日の三橋君の調子だと昨日隆也と組み立ててきた配球でどうにか大丈夫そうね…」

バッテリーから目を離さずに言う名前を、何か思う所があったのだろう、監督は黙って見つめていた。


それから三回の表、西浦の攻撃となった。だがさすがに高瀬も目が覚めてしまったようで、阿部は呆気なく敗れた。阿部はベンチへと戻り、監督に一通りの報告をして防具を付けるために奥に引っ込む。すると目の前に防具全てを両手いっぱいに抱えこんだ三橋が立っていた。どうやら阿部に何か言いたいらしく、阿部が防具を受け取った後、すぐ側に正座をしていた。

二人が話している様子を遠くから眺めていた名前は、三橋が応援するためにその場を離れたのを確認してから阿部の側へと向かった。



「……泣いてる」
「うっせ…」

急いで流れ落ちそうだった涙を手で拭う阿部を見つめながら呟く。

「感動…した?」
「……」
「驚いた。三橋君ってあんなにスラスラ喋ることあるんだね」
「いや、あいつ確実にテンションおかしくなっちまってる」
「ランナーズハイ…?」

ガバッと顔を上げた阿部に名前は首を小さく傾ける。

「それとはちょっと違う気がする」
「そうね…」

でも明らかに三橋君は変なスイッチが入ってる。調子がいいというよりは力をセーブできてないのかもしれない。
名前はくるりと体の向きを変えて三橋を見つめた。


「これは私の勘だけど。多分三橋君このまま行くと…どっかでパンク…」
「する。高い確率で」
「よね…。今日はいつもより気をつけておかないと」
「ああ、わかった」


試合は進み、どうにか一点もとられずに四回の裏を終えることができた。これもやはり一人一人の力が大きい。一人一人が冷静に処理したからこその結果なのだ。

三橋達選手は交代のため一旦ベンチへと戻る。だがその戻る途中、三橋がこけて桐青の捕手に助けられたところを偶然阿部と名前は見てしまった。監督は気づいていないようだが、これは監督に言うべきなんだろうか…二人はお互いに顔を見合わせた。


「今…コケた…よね…」
「ああ…」
「え、これ、どうするの…」
「とりあえずまだ様子見だ。足にきてるからコケたとは言い切れねぇかんな…」

そう言って三橋にどんどん振っていくようにだけ告げると防具を外しにかかった。

『8番ピッチャー、三橋君』

打つ気満々でスタンドに立った三橋はもちろん初球から振りにいった。2−1になったころにはタイミングまで合ってきていて、なかなかいい感じだ。そして次のボール。高瀬は多分フォークを投げたのだろうが、うまく抜けずになんと三橋のお尻へ直撃してしまった。阿部がスプレーを持って走るが特に異常はないようだ。


「お尻…は、代走きかないですね…」
「そう、だから三橋君には走ってもらわなきゃ」

名前の言葉に頷きながらサインをだす監督。阿部へのサインは…バントだ。
まぁ、隆也は流すの得意じゃないもんね…バントが一番確実。
名前は黙ってグラウンドを見つめる。そこにはバントを成功して一塁に立つ阿部の姿があった。


『2番セカンド、栄口君』

それから泉をアウトに取られ、栄口が続く。このチャンスはなんとしてもものにしたい。栄口には絶対にバント成功してもらいたいところだ。
そうして投げられたボールはギリギリのところで外されたが、なんとか栄口は身体を傾け、見事、当てることができた。

これで三橋がホームへと帰り、西浦に二点目が追加された。



それから五回が終わり、グラウンド整備が行われる。この回で西浦は一点取られてしまったがまだまだ三橋は投げ勝っている。だがそんな三橋は、ベンチに戻ってきた途端、鼻血を出してしまったので急いで応急措置をマネージャー達で始めた。

「千代ちゃんごめん、氷のうお願い」
「はい、名前ちゃん」
「ありがと。三橋君、脇にこれ挟んで。濡れたタオル顔に置くね。あと…はい、手空いてる人はこれで扇いでね」

そう言って近くにいた泉と田島にうちわを渡す名前。その後ろに心配そうな表情で阿部が立ったのに気付き、名前はふと顔を上げる。

「どうしたの」
「…こいつ…本当に大丈夫なのか?」
「うん、多分ね。今のところはまだ大丈夫そうよ」
「球数…減らすべきか…」
「…それもアリかもしれないけど、それじゃあ桐青には勝てないね」
「それはわかってる…」


まだ心配そうな表情の阿部を見て、名前は彼の手をそっと握ってふわりと微笑んだ。

「大丈夫。信じよう、三橋君を」

「おう…」

阿部もふっ、と笑い、手を握り返した。

次は6回の表、田島からのスタートだ。



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