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桐青戦開幕



先攻である西浦がノックを終え、一旦ベンチへと下がってきた。三橋よりも先にベンチへ入った阿部を見上げ、名前は小声で投手の様子を尋ねる。

「三橋君、援団大丈夫そう?」
「あぁ、俺もそれ心配してたんだけど、浜田とおばさんのおかげで援団まで寄ってった」
「良かった」

まず始めの懸念点がここで解消された。今から大切な試合だというのに投手を萎縮させてしまっては、元も子もない。それから間もなくして三橋もベンチへと戻ってきた。表情はどことなく楽しそうな、何か吹っ切れたような、いつもとは少し違った顔を見せている。

「三橋君、調子どう?」
「はひっ…だ、いじょ、ぶ…!」
「そっか、よかった」

相変わらず言葉は途切れ途切れだが、それでもやはり調子はかなり良さそうだ。名前はこれ以上変な刺激は与えないよう微笑み返して、自分の仕事に専念する事にした。





『一回の表、西浦高校の攻撃は一番、センター泉君』

試合が始まった。初めは泉から。相手の投手、高瀬準太は球速130キロ台でスリークオーター気味の投手である。130キロというスピードはマシンで皆慣らして来たつもりだが、やはり人が投げると全然違うのだと第一球目で悟らされた。泉は取り敢えず様子見としてバントの構えを取ると、意外にもあっという間にノーストライクツーボール。この流れだと次に投げるのはスライダーの確率が高い。

泉の読みは当たった。
ボールは綺麗にバットにあたり、選手の間を抜けた。

「感触はどうよ」
「スライダーは追える。マシンの軌道に近い」
「そっか!」

ファーストで口元を隠し、できるだけ素早く会話を済ませた水谷と泉。
続く栄口。彼は勿論バントでその次の巣山も綺麗にバントし、上手くランナーを三塁まで運ぶことができた。

「お疲れ様ー。ナイスバント栄口君、巣山君」
「どうもどうも」
「おー」

名前はベンチに戻って来た二人の側に寄って行く。

「次、監督は田島君にチャンス一回分任せるみたい」
「え、じゃあ作戦なしってこと?」

驚くあまり、目を見開く栄口に小さく頷く名前。

「ずっと、試したかったみたいなんだ」
「そっかー…」

こうしているうちに、田島は一回目のシンカーを見せられ不穏な空気が彼の周りを包んでいた。
あと一つ、どうにか田島にはシンカーを捉えてもらいたい。そう心の内で期待をしてしまうが、今回は最後までシンカーで田島をおさえられてしまった。

「空振り二つ…これは右打者用のフォークの方が可能性あるかもしれませんね」

名前が監督の側で、小さく呟く。

「やっぱりそうかな…うーん、まだシンカーも諦めたくないけどフォークの方がやっぱりねぇ…みんなには頑張ってもらわないと!」
「そうですね。そうすると今度は、花井君が責任重大かもしれません」
「そうね」



『一回の裏、桐青高校の攻撃は、一番サード真柴君』
ついに三橋が投げる番がやってきた。一番は一年の真柴。やはりスタメンの穴といえばこの真柴だろう。阿部もその辺を理解した上で今日の分の組み立てを考えてきた。

一球目は全力投球で外。真柴は見事に空振りした。そのあともトントン拍子に空振りし、なんとたった六球でスリーアウトでチェンジ。なんとも効率のいい初回だ。


「ナイスピッチ三橋君!取り敢えず急いで中入って!ほら隆也も」
「何だ…?」
「雨、雨降りだしたの!濡れる前に…!」


名前の言葉に二人は空を見上げた。なるほど、ぽつりぽつりと降りだしてきている。二人はそそくさと中へ入った。


「今日はホント調子良さそうね」
「う、ん…!」
「あれ、もしかして…暑い?」


三橋の異常なほどの汗と、真っ赤な顔を見てふと尋ねた。三橋はそんなことはないと首を横に振るが、明らかに何かが変なのは目に見えている。


「お前そういや試合前にアンダー替えてねぇだろ。今のうちに一回替えときな」
「うん」
「飲みもんとカロリーも入れとけ。持ってくるから着替えちゃいな」
「わかった!」

そう阿部に言われ、いそいそと着替えを始める。名前はそのすきに、そっと三橋の側にかけより、ちょこんとしゃがんだ。

「三橋君」
「はひっ……!?」

アンダーをエナメルから引っ張り出しながらビクッと肩を震わせた三橋。そしてゆっくりと声のした方へ首を傾ける。


「最後の打球、すごく飛んだね」
「う、ん…」

「でもさ、あの桐青からアウト三つとったんだよ。三橋君はスゴイ投手だよ」
「ち、ちが…これは…阿部、君とか…みんな、がいたから…」

みんなのおかげで俺は桐青からアウトが取れた。
これしか考えられない。
だけどそれでも三橋は満足だった。だって、こんなにも力が湧いてくるのは初めてだったから。

「違うよ。そりゃあみんなで協力して取れたっていうのもあるかもしれない。だけどね、三橋君だって十分みんなのために頑張ってる。それくらいは思っててもバチは当たらないんじゃないかな」

「う、うん…」
「よしっ!って…おっと…次三橋君の打順じゃない。ごめんね、長々と。頑張って!」
「うん!」

三橋は元気よく返事をして出ていった。名前はスコアブックを手に持ち直し、阿部の横に並んだ。

「ごめんね、三橋君にカロリー取らせる時間なくなっちゃって」
「いいよ、後から取らせるから。何か大事な話してたんだろ?」
「大事って言うか…うーん…いや、ただホントのことを言っただけ。って…わぁぁああ!!!!三橋君!!」


目の前にいきなり広がる三橋の姿。彼はすごい勢いでファーストへ転がっていた。審判が駆け寄っているが、どうにか三橋は無事のようだ。

ツーアウトランナー一・三塁。次の打者は阿部だ。阿部は点を入れる気満々で、打席に立っていた。だが、事件が起こってしまった。なんと三橋が二塁と三塁の間で挟み撃ちにされてしまったのだ。ボールを持った選手にタッチされてしまったらアウトになってしまう。三塁にいた花井は慌ててホームへと走った。それを見て、桐青の選手もタッチを急ぐ。

すると、花井がホームへとたどり着いた。だが三橋もほぼ同時にタッチされている。どっちだ…一体どっちなんだ…。
みんなの視線が審判へ向く。審判はしばらく悩んだ末、こう言い放った。


「ホームイン!!!!」


ついに西浦が先取点だ。



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